私は学生の頃から現在まで30年ほど放電プラズマについて研究をしています。最初は、レーザを大気中に集光してできたプラズマで雷雲から雷を人工的に誘発しようという「レーザ誘雷」の研究でした。教員になって赴任した研究室でプラズマの発光を利用した蛍光ランプの無水銀化に取り組みました。最近10年ほどはプラズマ医療、プラズマ照射で細胞に外部の遺伝子を取り込ませて新しい機能を発現させる「プラズマ遺伝子導入」の研究に取り組んでいます。放電工学から照明応用を経て医療応用へと大体10年ごとに段々とテーマのカバーする範囲が広がっています。
かつては、新しい技術は30年程の寿命を持っていて、大学で最先端の技術を学んだ学生は社会に出て30年働いてその技術の寿命が尽きる頃に55歳で定年を迎えていましたので、大学での学びが仕事に直結していました。ところが最近は技術の寿命はどんどん短くなっており、政府関連機関の調査では10年に満たないという結果も出ています。現代では大学で先端の技術を学んでも仕方がないのでしょうか?いいえ、決してそのようなことはありません。大学で先端の研究を経験することは、テーマそのものよりも「未知なるものへの科学的なアプローチ」を学ぶことが目的なのです。工学系の学部では「卒業研究」は重要視されてきましたが、それは卒業研究が最近重要視されているPBL(Problem-based Learning、問題(課題)解決型学習)に他ならないからです。皆さんには、ぜひ工学を学び、最先端の課題を題材にした卒業研究を通して、「問題への科学的なアプローチ」を身に着けてほしいと思います。
今の私の研究はまるで医学や生物学のようですが根底にはやはり電気電子工学があります。そんな私の経験からもう一点のアドバイスです。自分が選んだ専門分野をしっかりと柱にしつつ、それにとらわれず、若いうちに広くいろいろなことに興味をもって学んでください。私の場合、専門の電気電子工学だけでなく、機械工作(バイクの運転と整備)の経験はいつも役立っていますし、大学の教養課程で学んだ化学や生物学、心理学などの異分野の知識が現在の研究では非常に役に立っています。企業の技術開発でも電気自動車など複数の分野が融合した学際的な分野が重要になっています。異分野への参入を恐れず学際的に学ぶことが将来の飛躍の糧となるでしょう。
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