乳酸菌や納豆菌などは、我々になじみ深い微生物です。実は、1gの土には1億匹もの微生物が生息しています。理工学部・電気化学研究室では、泥に生息する微生物を触媒にして、泥中の有機物(汚れ)を燃料として電気をつくりだす「泥の電池」を研究開発しています(図1)。「泥の電池」は、一般的には「微生物燃料電池」と呼ばれます。我々は、「泥中の微生物をそのまま利用」して、「可能なだけ発電」することをコンセプトにして「泥の電池」と呼んでいます。
微生物は有機物を酸化(消化)して、エネルギーの高い電子を獲得します。そして、その電子は微生物内のいろいろな反応に使われます。その過程で、始めは高かった電子のエネルギーが低くなります。低いエネルギーの電子は、もう反応には使えません。かといって、体内に貯めることもできません。どこかにその電子を引き取ってもらわないといけません。好気的な微生物は、その電子を酸素還元することで、酸素に引き取ってもらいます。硝酸還元菌はその電子を硝酸イオンに、硫酸還元菌はその電子を硫酸イオンに引き取ってもらいます。ある種の微生物は、その電子を導電体(電極)に流してこれを解決しています。このような微生物を発電菌と呼びます。
微生物を使って発電できる原理は以下の通りです。電極が発電菌から受け取った電子を、外部回路(例えばLEDなど)に流して、その後に別の電極で酸素を還元することで、その電子を消費します。これが「微生物燃料電池」の原理です。
微生物燃料電池の原理は、100年程前に発見されていましたが、実用化への研究開発は進んでいませんでした。最近、再生可能エネルギーや環境保全への関心が高まり、注目されるようになりました。電気化学研究室では、2014年に干潟での発電実験を始めて、インドネシアでの実験も行いました。発電菌の特定はしていませんが、どこにでも発電菌が生息していることが解りました。2020年からは、水田での発電にも成功しました(図2)。「泥の電池」は、今後のITを駆使したスマート農業のセンサや信号送信機の独立電源としての役割が期待されます(図3)。
私たちの電気化学研究室では、「泥の電池」の他にも、触媒として酵素を用いた酵素燃料電池も研究しています。今後、化学エネルギーと電気エネルギーを自在に変換しうる「電気化学」の分野は益々重要になると思います。得られた研究成果を応用技術に発展させて持続可能な社会の実現を目指していきます。
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