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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

バクテリアを身近に感じてみよう

2024年6月28日
鹿児島大学 工学部
化学生命工学、橋口周平

はじめに

 私たちが生活している環境中には細菌、ウイルス、カビなど様々な微生物が存在します。例えば大腸菌の場合、30〜60分で細胞分裂します。具体的には、1匹の大腸菌がいれば、その30分後には2匹、さらに30分後には4匹………6時間後には6万匹になります。普段は気づかないこのようなバクテリアも培養することで、肉眼で見ることができます。実験室で行っている細菌培養では栄養価の高い専用の培地を用いますが、近所のストア等で入手できる材料で行えるようにアレンジしてみました。

 この実験では、指先を寒天に触れることで何かしら増殖してくるか、という観察を通じて微生物の存在を実感してもらうことが目的です。

準備するもの

 市販の寒天、塩、なべ、フタ付の瓶(フタは外しておく)を2個、トング、計量カップ(はかり)、アルミホイル

方法

1.瓶の容量チェック

 瓶の半分程度まで水を加えて、その水の量を決めておく
(計量カップで計る、あるいは、重さを測定する方法でも大丈夫です)

2.瓶とフタの滅菌

  1. なべに水をいれて、瓶を沈める
  2. 瓶のフタは、浮いてくると思いますので、フタの内側が下を向くように浮かべる
  3. なべを火にかける
  4. 水が沸騰してきたら、弱火にして5分程度放置(滅菌)
  5. 火を止めて、トングで瓶とフタを、アルミホイルの上に取り出す(瓶とフタは逆さまにして置きます、写真1)
    ※手に熱湯がかからないように注意して下さい
  6. なべの水を捨てる
    写真1 余熱で乾燥させます写真1 余熱で乾燥させます

3.寒天入りの瓶の作製

  1. 「1」で測定した量の2.5~3倍量の水をなべにいれる
  2. 水100 mlに対して、1gの食塩と1gの寒天を加える
    (200mlであれば、2gの食塩と2gの寒天を加えます)
  3. なべを火にかけて寒天を溶かす
  4. 沸騰してきたら、ふきこぼれない程度の火に調節して、さらに1、2分、スプーンなどで、なるべく泡立たないようにやさしくかき混ぜて、均一にする
  5. 「2」で準備しておいた滅菌済みの瓶に、溶かした寒天を流し込む
    ※目分量で瓶の半分くらいが目安です
  6. 瓶の口にアルミホイルをかぶせて、固まるまで放置する
    ※煮沸の際は、ぐつぐつ沸騰させる必要はありません。火傷をしないように注意しましょう。

4.実験

  1. 「3」で作製した寒天の表面に、指先を10秒間ほど密着させる(写真2)
    写真2 寒天を割らないように優しくふれるようにしましょう写真2 寒天を割らないように優しくふれるようにしましょう
  2. 軽くフタをする(写真3)
    写真3 フタはゆるめに。ここでは、フタの上からアルホイルをかぶせています写真3 フタはゆるめに。ここでは、フタの上からアルホイルをかぶせています
  3. もう1つの瓶は、対照実験としてそのままフタをする(何も変化しないはず)
  4. 実験群がわかるようにラベルを書く(写真4)
    写真4 実験群がわかるようにラベルしておきます。写真では、指先を触れた瓶に「○」印、ふたをかぶせただけの瓶に「―」印をつけています写真4 実験群がわかるようにラベルしておきます。写真では、指先を触れた瓶に「○」印、ふたをかぶせただけの瓶に「―」印をつけています
  5. 室温で放置(環境にもよりますが2週間程度)
  6. 寒天の表面を観察する

 すべての微生物を培養できる条件ではありませんが、細菌やカビ類が増えてくると寒天の表面に何かしら目視で確認できると思います。普段の観察の際はフタにはさわらず、瓶の脇から観察して下さい。フタを開けてしまうと環境中のバクテリアが混入することがあります。

 実験室では、栄養価の高い培地を用いて37℃で培養しますので、大腸菌であれば一晩で増殖した大腸菌が目視で確認できるのですが、この方法では、室温でおそらく10日から14日後に写真のような変化が観察できると思います。なるべく気温の高い夏場に行うことをおすすめします。また、瓶を3つ準備して、もう1つの瓶には、アルコールなどで消毒後の指先を10秒間密着させて、消毒の有無でどうなるか観察するのもよいでしょう。

 実験後の瓶の中身は、新聞紙などを詰めた袋にいれて、袋の口を閉じて可燃ゴミとして出してください。その際、増えたバクテリアが直接手にふれないように注意してください。容器も廃棄したいという場合は、地域で指定された分別方法に従って廃棄して下さい。

結果の一例

 写真5のように、指先を触れていないほうは変化がないのに対して、指先を触れた方はなにやら白い固まりのようなものが観察されました。

写真5写真5

 写真6は、指先を触れた方の瓶の寒天表面を撮影した写真です。寒天の水分で流れてしまっていますが、同心円状に増えた丸い点が観察されました。これは「シングルコロニー」といって、一匹のバクテリアが増殖してできたものです。言い換えると、指先を触れた際、ここにバクテリアが一匹存在したことを意味します。

写真6写真6

本実験の主旨

 普段は目に見えない様々な微生物が私たちの体に存在していることを実感していただけたでしょうか。発酵食品には乳酸菌などが含まれていますし、細菌などの微生物は環境中いたるところに存在しています。決して「手がきたない」ということではなく、身の周りには様々な微生物が存在し、共存しているということがこの実験でお伝えしたいメッセージの一つです。

 もう一つお伝えしたいことは 、私たちの体の防御を担う免疫システムの存在です。近年、「腸内細菌」という言葉を耳にすることがあると思いますが、生体が外界と接触している場所のあらゆる部分に常在菌は生息しています。しかし、皮下、血液など体の内部には通常、細菌などの異物は存在しません。これは私たちの体の防御を担う免疫システムが絶えず異物を排除しているためです。生体と細菌叢に存在する細菌との共生関係についてはまだまだわからないことが多いですが、環境中に存在する細菌やウイルスなどの異物から生体を守る「免疫」について考えるきっかけとなれば幸いです。

おわりに

 今回はバクテリア(細菌)についての実験を紹介しましたが、地球上には細菌に感染するウイルスが存在します。「バクテリオファージ(ファージ)」という名称が広く用いられており、私たち哺乳動物(真核生物)には感染することがありません。その発見は1910年代に遡り、これまでに多種多様なファージが単離されています。

 ファージは、コドン表の解明、mRNAやtRNAの発見における研究材料としてだけでなく、遺伝子組み換え技術やファージディスプレイ技術などに活用されてきました。最近は、抗生物質に代わる細菌感染症対策としてファージを利用したファージ療法の開発や、ファージを利用したワクチン開発が国内外で進められています。

  • ※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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