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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

美味しそうなにおいをつくる化学 ― アミノ酸と糖のリアクションフレーバー

2025年12月19日
九州工業大学 情報工学部

はじめに

 美味しそうな香りとは、いったいどのようなものでしょうか?──焼きたてのパンの匂い、ステーキを焼いたときの香ばしい香り、コーヒーや味噌の深い香り──こういったおいしそうなにおいの多くは「メイラード反応(Maillard reaction)」によって生まれます。アミノ酸と糖が反応して褐色になり、同時に多様な香り成分が生成されます。この香りを人工的に再現し、食品香料として利用する技術は「リアクションフレーバー(reaction flavor)」として、さまざまな食品に利用されています。

 メイラード反応は最初に発見した、フランスの化学者Louis-Camille Maillardにちなむ人名反応で、アミノ酸と糖を加熱した際に褐色物質(メラノイジン)ができることを見出しました(1912年)1)。約40年後(1953年)、アメリカの化学者 John E. Hodgeによって反応機構が体系化されました「Hodge Scheme(ホッジスキーム)」2)

 アミノ酸にはさまざまな種類があり、ブドウ糖と反応することで多様なにおいを出します。この性質は、加熱によりおいしそうなにおいを出す「リアクションフレーバー」として食品業界で応用されるようになりました。食品香料・加工食品・フレーバー設計など、化学反応を使った‟素材改変”として工学的に応用されています。この実験では、アミノ酸と糖を加熱して得られるにおいを体験します。

準備する物

  • ブドウ糖 (タブレットやお菓子のラムネとして売っています)
  • アミノ酸 (サプリメントとして売っています。学校を通じて試薬としても購入できます)
    {アミノ酸の例: グリシン フェニルアラニン リジン メチオニン など}
  • ホットプレートや電気コンロ (温度がわかるものが便利)
  • アルミホイル
  • 保護メガネ 軍手

実験の方法

  1. 材料を混ぜる
    グルコースとアミノ酸を1:1程度で混ぜ、アルミホイル上に少量広げる。(タブレット形状の場合、よく砕いて使う)

    加熱する

    ホットプレートを約130~160℃に設定し、混合物を数分間温める。(粉末の上に少量の水を垂らしてもOK)

    注意点

    加熱中はやけどに注意し、換気の良い場所で行う。
    おいしそうなにおいがしたからといって口に入れないこと。

  2. 観察する
    色の変化(白→茶色)香りの変化を比べる。

糖と加熱反応させることで生じるフレーバー3)

アミノ酸 フレーバーの種類
グリシン カラメル
フェニルアラニン バラ、すみれ
システイン 肉風味
メチオニン ポテト、キャベツ
リジン 焼いたさつまいも
アルギニン パン、バター、ポップコーン
グルタミン チョコレート

おわりに

 文章ではにおいを伝えることができませんので、実際にどのような香りがするかは実験してみてのお楽しみです。今回、アミノ酸と糖の反応を「におい」を通して感じることができました。アミノ酸と糖だけの単純な実験ですが、中で起こっている化学反応は極めて複雑で、どのようなものができているのか、明らかになっていない部分も残っています。ちなみに、糖だけでおこる反応はカラメル化反応と言って、メイラード反応とは区別されます。

 実は3大栄養素のタンパク質はアミノ酸がつながったものですし、炭水化物はブドウ糖がつながってできています。これらは体をつくったり、エネルギーになる物質です。多くの糖やアミノ酸は甘みやうま味を示します。私たちの体は生きるために必要なアミノ酸やブドウ糖から出てくるにおいや味を、おいしそうに感じるようになったのかもしれませんね。

参考

1) Louis-Camille Maillard (1912): Découverte de la réaction entre acides aminés et sucres.

2) John E. Hodge (1953): Chemistry of Browning Reactions in Model Systems, J. Agric. Food Chem.

3) アミノ酸ハンドブック 味の素株式会社編 株式会社工業調査会発行

  • ※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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