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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

不思議な力:磁気力
-アーンショーの定理の検証-

2017年9月22日
埼玉大学 工学部 機能材料工学科

1.はじめに

 磁場を加えると、磁気モーメント(N極とS極の対)が誘起されると云うのは、全ての物質が普遍的に示す性質です。そのときに、磁気モーメントの向きが磁場の向きに平行になる物質が、常磁性体と強磁性体で、それが反平行になる物質が反磁性体です。

 反磁性体は、磁場中で安定に3次元浮上できます。例えば、磁場中で生きたカエルを浮上させた実験はイグノーベル物理学賞(2000年)の対象になりました。一方、常磁性体や強磁性体については、静止物体の3次元浮上は原理的に不可能なことが、アーンショーの定理(S. Earnshaw, On the nature of the molecular forces which regulate the constitution of the luminferous ether, Trans. Cambridge. Philos. Soc. 7, 97 (1842). ) として知られています。

 今回のおもしろ科学実験室はこの定理を検証する2種類の実験です。実験Aは、静止した強磁性体を利用するもので、実験Bでは、回転する強磁性体を利用します。

実験A 複数のパチンコ球を用いた実験

準備するもの

  • 市販Nd-Fe-Bリングマグネット1個:外径 約50mm、内径 約30mm、長さ 約40mm
  • アクリル製ケース: 約90 mm ×約70 mm ×約13 mm
  • パチンコ球7個程度:直径10 mm, 質量 5.5 g
  • アクリル製スペーサー数枚:リングマグネットとパチンコ球間距離調整に使う。

手順

  1. パチンコ球7個程度をアクリル製ケースに入れる
  2. リングマグネットで5~6個のパチンコ球を吸い付ける
  3. リングマグネットの軸を水平面で回転、移動する。
  4. リングマグネットとケースと間に適当なスペーサ-を挿入する。
  5. 上記2~4を繰り返して、スペーサーの厚さを徐々に変えながら、パチンコ球の鉛直方向に関する安定位置を探す。

別の方向から観察してみる

別の方向から観察してみる

アーンショーの定理どおりである

パチンコ球を用いた実験は、2003年に国内で最初になされ、複数の新聞で報道されました。その後、関連した研究が国際的学術雑誌で発表されています。

  1. S. Sasaki, I. Yagi, M. Murakami, Levitaion of an iron ball in midair without active control, J. Appl. Phys. 95, 2090 (2004).
  2. M. Sakai, T. Takabayashi, K, Sugawara, T. Shibayama, Y. Shimomura, T. Orikasa, K. Kamishima, N. Hiratsuka, Levitation mechanisms of a single steel ball under moderate magnetic fields provided by a Nd-Fe-B ring magnet, J. Appl. Phys. 15, 083908 (2005).
  3. M. Murakami, Y. Nishimura, T. Hirooka, S. Sasaki, I. Yagi, Interaction of multiple iron balls in magnetic fields, J. Appli. Phys. 97, 083911 (2005).
  4. Y. Sakurai, Magnetic levitation of an iron ball, J. Appl. Phys. 104, 044503 (2008).

実験B 磁石製コマの回転を利用する

準備するもの

  • レビトロンTM一式(市販)

手順

  1. 磁石製土台をできるだけ水平にする。
  2. 水平にした磁石製土台の上に、プラスチック製台を置き、その台上で、磁石製コマを指で勢いよく回す。
  3. コマが安定に回り始めたら、プラスチック製台を静かに持ち上げる。
  4. コマが適切な位置にくると、プラスチック製台から、ふわっと、離れて、次の動画のようになります。
  5. 最初のころはうまく行きません。辛抱強く行ってください。

レビトロンTMの浮上メカニズム(仮説)

反磁性的配置
  • コマの回転軸(角運動量の向き)と磁石の方向(磁気モーメントの向き)は一致している。
  • コマの回転が継続する間は、磁石製土台と磁石製コマとが反磁性的配置にある。
  • 回転軸の向きが鉛直方向から傾くと、磁気力が偶力となって、コマに才差運動が発生するが、自転は継続する。
  • コマの回転がなくなると、落下するので、アーンショーの定理と矛盾しない。

レビトロンTMの浮上メカニズムは、物理学の研究対象となって、国際的学術雑誌にいくつかの論文が発表されています。

  1. M. V. Berry, The LevitronTM: an adiabatic trap for spins, Proc. R. Soc. Lond. A 452, 1207 (1996).
  2. M. V. Berry and A. K. Geim, Of flying frogs and levitron, Eur. J. Phys. 18, 307 (1997).
  3. T. B. Jones, M. Wasizu, R. Gans, Simple theory for the Levitron, J. Appl. Phys. 82, 883(1997).
  4. M. D. Simon, L. O. Heflinger, S. L. Ridgway, Spin stabilized magnetic levitation, Am. J. Phys. 65, 286(1997).

今回の実験のまとめ

  • 強磁性体を用いた磁気浮上には、反磁性的配置を安定化する仕掛けが必要である。
  • パチンコ球の場合は、補助パチンコ球を利用することで、静止する2次元浮上が可能であるが、3次元浮上はできない。これはアーンショーの定理どおりである。
  • レビトロンTMの場合は、磁石製コマの回転運動を利用することで、3次元浮上が可能である。回転が止まると、浮上できないので、アーンショーの定理と矛盾しない。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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