私たちの食生活の中でも大事な野菜を科学の目で見ると、植物のもつ面白い性質を垣間見ることができます。比較的に簡単に手に入る野菜と道具などを使って、植物の光合成に関係する化学物質の不思議を調べてみましょう。
乳鉢にシリカゲルの粒を入れて、その上にほうれん草の葉の部分を細かくちぎり、シリカゲルを被せるように入れます。
シリカゲルの粒が飛び散らないように、押さえつけるようにすりつぶしていきます。水分が多いようならシリカゲルを少量加えてすりつぶし、全体が緑色の粉末状になるまですりつぶします。
乳鉢にエタノールを粉末が浸るぐらい入れ、乳鉢でかき混ぜて色素をエタノールに抽出します。
漏斗を使って濾過します。汚さないように新聞紙などの上でやりましょう。漏斗上の残渣にある色素分は少量のエタノールで流し落とします。コーヒー用のフィルターを使ってもできます。
葉緑色素のエタノール抽出液ができました。
自然光の入らない真っ暗な部屋で、紫外線ランプを横から当てると赤く光ります。
野菜から抽出した植物色素(クロロフィル)は自然光のもとでは緑色です。クロロフィルは自然光のうち、紫外線や青や赤の光を吸収して緑の波長の光は吸収しないので、緑色に見えます。植物の葉の葉緑体では、吸収した光エネルギーを段階的に別のクロロフィルなどへ受け渡しながら化学エネルギー(ATPとNADPH)に変換します(明反応)。植物はこの化学エネルギーを使って、二酸化炭素と水から糖質と酸素を作り出しています(暗反応)。過剰な光エネルギーは吸収した光より弱いエネルギーの赤色の蛍光として放出しますが、生きた植物では受けた光を効率よく光合成に使うため、葉っぱが無駄に赤く光ることはほとんどありません。ところが抽出されたクロロフィルでは、光合成に使うエネルギーへと受け渡すことができなくなるので吸収したエネルギーを赤色の蛍光として放出します。このため暗所で溶液を紫外線で照らすと、赤色に見えるのです。
残ったほうれん草の茎の部分をすりおろします。
試験管に過酸化水素水かオキシドールを入れ(右)、すりおろしたほうれん草の茎を入れます(左)。試験管でなくても構いませんが、密閉容器は使わないでください。入れた途端に発泡し始めます。上端はアルミホイルで塞いでおきます。
試験管に酸素が発生していることは、線香の火が消えないことで確かめることができます。
細長い試験管だと細かい泡が蛇のように出てきてしまうこともあります。わざと洗剤を混ぜておくと、もっと長い酸素の泡の蛇ができるかも...ただし、後片付けは覚悟してください。
出てきた泡は酸素ですが、過酸化水素の分解でできたもので、もちろん光合成でできたものではありません。植物は光合成で酸素を作りますが、その細胞は、光合成の副産物としての酸素が変化した活性酸素による酸化ダメージの危険にさらされています。この防御策として細胞は危険な活性酸素を分解して無害化するための酵素を持っており、その一つが過酸化水素水を水と酸素に分解するカタラーゼです。カタラーゼは植物だけでなく、酸素呼吸で活性酸素が生じてしまう動物にもあり、肝臓や赤血球に多く存在します。傷口のオキシドール消毒で激しく細かい泡が出るのはカタラーゼによる反応です。カタラーゼは酵素の中でも抜群の処理能力を有しています。
この実験は、2017年に佐賀市適応指導教室の理科実験でおこなったものを、大学院生2名が家庭でもできるように改変・確認してくれました。
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