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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

光る有機化合物を創る

2022年10月7日
京都工芸繊維大学
分子化学系 有機分子材料化学研究室

はじめに

 有機化合物とは、炭素と水素を主成分とする化合物の総称であり、光る有機化合物とは外部からもらった電気エネルギーや光(紫外線)エネルギーを可視光線として放出する性質をもった有機化合物のことです。私たちの生活は、さまざまな場面で「光る有機化合物」が活躍しています。例えば、最近では「有機ELテレビ」や「有機EL携帯」という言葉を皆さんもよく耳にするようになってきたと思います。これらの言葉に含まれる「有機」という単語はまさに有機化合物の「有機」に由来しています。また、ELとはエレクトロルミネッセンスの略で、電気によって発光する現象を指します。つまり、有機ELテレビや有機EL携帯の機械の中には「電気を流すと光る有機化合物」が入っていて、その有機化合物が電気エネルギーをもらって光ることにより私たちは多彩で美しい映像や動画、文字情報をキャッチすることができるというわけです。また、有機化合物の中には、生体内の特定の細胞や組織、あるいは分子やイオンと結合した状態になったときに紫外線を照射すると発光するものもあり、それらの「光る有機化合物」はガン細胞の可視化や生体内の代謝物の定量測定に利用されています。

蛍光を発する有機化合物

 私たちの研究グループでは、「光る有機化合物」の開発に取り組んでいます。「光る有機化合物」のデザインから始めて、デザインした化合物をフラスコの中で実際に合成し、そののち得られた化合物の基礎物性の評価を行い、さらに発光材料として応用の可能性を追求しています。「光る有機化合物」を単に作っているのではなく、新しい「光る有機化合物」を創り出しています。期待する性能を発揮する「光る有機化合物」を生み出すには、有機化合物の主成分である炭素と水素に加えて導入するそれら以外の元素(例えば、酸素や窒素、硫黄、ケイ素など)の選択がたいへん重要です。

 例えば、図1に示す炭素体とケイ素体の結晶はそれぞれ紫外線を当てると青色の蛍光を発します。炭素体の発光効率が0.34(34%)であるのに対し、ケイ素体の発光効率は0.91(91%)です。すなわち、炭素体の骨格に含まれる炭素原子一つをケイ素原子一つで置き換えるだけで、発光材料としての性能は格段に上昇することを見つけています。さらに、ケイ素体の構造に改良を加えた化合物(ケイ素体の改良体)を有機EL素子に挟み込んで電流を流すと効率よく青色の蛍光を発することを認め、有機EL用材料として利用できることも明らかにしています。

図1 結晶状態で蛍光を発する炭素体とケイ素体の構造式と発光効率図1 結晶状態で蛍光を発する炭素体とケイ素体の構造式と発光効率

 一方、図2に示す酸素体は黄色の蛍光を発することを見つけましたが、酸素体に含まれる酸素四つのうち二つを硫黄に代えた硫黄体になると赤色蛍光を示すことを明らかにしています。これも有機化合物の発光性が、骨格に含まれる原子のわずかな違いで劇的に変化する例の一つと言えます。こうした研究成果は予想通りのときもあれば、想定外に見つかるときもあります。こういうところに、新しい有機化合物をデザインする研究の面白さと難しさを感じることができます。

図2 粉末状態で黄色や赤色の蛍光を発する有機化合物の構造と発光の様子図2 粉末状態で黄色や赤色の蛍光を発する有機化合物の構造と発光の様子

蛍光とりん光を同時に発する有機化合物

 ここまで紹介した「光る有機化合物」は、蛍光材料とよばれるものです。蛍光は、外部からエネルギーを与えている間はずっと光り続けますが、エネルギーの供給をやめると即座に光らなくなります。一方、「光る有機化合物」にはりん光材料と呼ばれるものもあります。りん光は、外部からのエネルギー供給をやめても暫くの間(数マイクロ秒〜数秒)、発光が継続します。私たちのグループでは、青色の蛍光と緑色のりん光を同時に発する有機化合物(蛍光−りん光二重発光材料)の開発にも成功しています。構造式はまだ明かすことはできませんが、紫外線(UV)を照射している間は青色に、紫外線の照射を止めると発光が緑色に変わる様子を図3に示します。こうした二重発光材料は、酸素濃度や温度の検出に利用することができます。

図3 蛍光−りん光二重発光材料の結晶の発光色が青色から緑色に変わる様子図3 蛍光−りん光二重発光材料の結晶の発光色が青色から緑色に変わる様子
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