私たちの体の中や食べ物に含まれる「コレステロール」や「糖(グルコース)」が、実は新しい先端材料として注目されています。これらの分子は“自分で整列する性質(自己組織化)”を持ち、条件によって美しい秩序ある構造をつくり出します。本稿では、そんな身近な分子を利用して、「光で色や形が変わる」液晶材料の世界をご紹介します。特に、分子がらせん状に並ぶ「コレステリック液晶」という特別な液晶に注目します。
液晶はテレビやスマホのディスプレイに使われている物質で、流れるのに分子の向きが揃っているという特徴があります。その中でも「コレステリック液晶」は分子がらせんのようにねじれて並んでいて、そのねじれの間隔によって特定の色の光を反射します(図1)。ねじれの間隔が変わると反射する色も変わり、光や熱で色が変わる「構造色」として見えるのです。これは自然界でも、昆虫の羽やカブトムシの殻などに見られます。
このねじれ構造を光で自由に操るには「光スイッチ分子」が必要です。例えばアゾベンゼンやアリールアゾピラゾールという分子は、紫外線を当てると形が変わり(トランス型からシス型へ)、可視光や熱を当てると元に戻ります(図2)。私たちはこの光スイッチ分子と、コレステロールや糖といった“ねじれをつくる分子”を組み合わせることで、光でらせんの間隔や回転方向を変えられる液晶をつくっています。こうした分子レベルの小さな変化が集まって、液晶全体が回転したり、模様が動いたりします。例えば図3では、紫外線を当てると小さな液滴のらせんが縮んで反時計回りに回転し、可視光を当てると逆にらせんが伸びて時計回りに回転する様子が見えます。まるで光で動く“分子のモーター”のようです。
光で応答するコレステリック液晶は、窓ガラスの色を変える「スマートウィンドウ」、ホログラムや3Dディスプレイ、分子レベルの小さなモーターなど、幅広い応用が期待されます。しかも材料はコレステロールや糖といった自然由来の分子なので、環境や体にもやさしいのです。自然素材と光が組み合わさって生まれる“ねじれた液晶材料”は、次世代のスマートマテリアルとして大きな可能性を秘めています。
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