解熱・鎮痛薬になるアセチルサリチル酸(3)は、サリチル酸(1)をアセチル化して得られます。サリチル酸(1)は柳の樹皮に含まれる薬効成分として知られていましたが、その副作用がこの反応で抑えられます。アセチルサリチル酸が生成することを、呈色反応・融点・赤外吸収で確かめてみましょう。
注意点
実験は必ず専門家の指導のもとに行って下さい。
得られた合成品を口に入れるのは厳禁です。保護メガネを必ず着用し、十分な換気設備のもとで行ってください。
用意するもの
- サリチル酸
- 無水酢酸
- エタノール
- ヘキサン
- 塩化鉄(Ⅲ)
- 炭酸水素ナトリウム
- 酢酸エチル
- 酢酸
- 氷水
- 電子天秤
- 薬包紙
- ドライ真空ポンプ
- ブフナーろうと
- ろ紙
- ろ過鐘(吸引びん)
- バーナー等
- 湯浴
- ビーカー
- メートルグラス
- 撹拌棒
- 試験管
- 薬さじ
- 駒込ピペット
- 時計皿
- 軍手
- シリカゲル薄層クロマトグラフィープレート(市販品)
- 融点測定器
- 赤外分光器
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サリチル酸(1)3.0g、無水酢酸(2)3.0gを100mLビーカーに入れてよく混ぜます。通常は酸触媒を使用しますが、ここでは使用しないで行います。
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湯浴上で加熱すると透明な液体になります。さらに加熱を続けるとアセチル化されます。酸触媒を使用しないので十分加熱を行った後、放冷します。
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冷却後水の入ったビーカーにあけてよく砕き、これを吸引ろ過で分け取ります。固形物がアセチルサリチル酸です。
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ろ過をしながら固形物を水で洗浄します。これにより残っていたサリチル酸がろ液に移動します。ろ液に塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えると写真のように青紫色あるいは赤紫色に呈色します。これはサリチル酸のようにベンゼン環に直接結合したヒドロキシ基をもつ化合物に特有の呈色反応です。また、洗浄するたびにろ液のサリチル酸が少なくなっていく様子がわかります。
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固形物をビーカーに移してエタノールと水の混合溶媒(体積比2:1)を適量(6mL以内)加え、湯浴上で加熱して溶かします。溶けたら室温で放冷あるいは氷水で冷やして再結晶させて吸引ろ過します。水で洗浄も行います。純度をあげるために必要に応じて再結晶をくりかえします。
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結晶をろ紙ではさんで水分をとり、乾燥器で乾燥させるとアセチルサリチル酸の粉末のできあがりです。
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アセチルサリチル酸の水溶液、サリチル酸の水溶液にそれぞれ塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えると、アセチルサリチル酸は呈色しないことからアセチルサリチル酸のベンゼン環にはヒドロキシ基がないことを確認できます。
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アセチルサリチル酸とサリチル酸のエタノール溶液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えると両方とも気体が発生します。これはカルボン酸であるアセチルサリチル酸とサリチル酸が炭酸水素ナトリウムと反応して二酸化炭素を生成するためです。
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ルーペで観察しながら結晶の融点を測定し、純度を確認します(アセチルサリチル酸の融点135℃)。
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シリカゲルを塗布したプラスチックプレートの下部につけた点に、アセチルサリチル酸(左)、サリチル酸(右)、両者の混合物(中央)の溶液を吸着させます。プレートの下端をヘキサン、酢酸エチル、酢酸混合溶媒に浸けると有機溶媒がシリカゲル表面を上端に向かって移動していきます。このときアセチルサリチル酸とサリチル酸も移動しますが、シリカゲルとの相互作用の違いにより移動距離にも差が生じます。これによって混合物を分離してアセチルサリチル酸を確認することができます。このような分析手法は薄層クロマトグラフィーと呼ばれます。
- 分子を形づくる様々な結合(C=O、O–H、C-Hなど)は、それぞれ特定の振動数で伸縮振動や変角振動をしています。さらに、これらの振動の多くでは固有の波長の赤外線吸収が起こることが知られています。この現象を利用して、吸収される赤外線の波長を調べることで分子内の結合の種類を調べることができます。
二酸化炭素の伸縮振動の例
下図はアセチルサリチル酸とサリチル酸の赤外吸収スペクトルの一部です。両者は類似しており、カルボキシ基など共通する吸収帯が現れますが、アセチルサリチル酸特有の吸収帯も確認されます。横軸は波数(波長の逆数)、縦軸は赤外線の透過率です。下向きのピークは赤外線の吸収を表しています。
(電気通信大学 加固昌寛、山北佳宏、三輪寛子、落合隆夫、藤本甫)
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