大空を羽ばたく航空機には、多種多様な工業材料が用いられており、その代表例として、ニッケル基超合金や炭素繊維複合材料(CFRP)が挙げられます。ニッケル基超合金は、航空機エンジンのタービンブレード部材として利用されており、高強度および耐熱性を兼ね備えた材料になります。一方、CFRPは熱硬化性樹脂の内部に炭素繊維を規則的に配列することにより低密度でありながら優れた機械的性質を生み出し、機体の軽量化に貢献しています(図1参照)。
工業材料を必要な形状に加工することにより航空機は製造されます。加工法は、①工業材料を削る除去加工、②工業材料の変形を利用する塑性加工、③電気エネルギーを利用する特殊加工に分類されます。切削加工は除去加工の一つであり、相対運動をする切削工具と工業材料を接触させ、求められる形状を完成させます(図2参照)。上述した超合金・CFRPの切削加工では、これらの材料の優れた性質が影響し、切削工具の損傷と摩擦熱の蓄積を発生させます。
切削工具を保護し、工具の長寿命化を実現する技術として表面処理があります。表面処理は、金属やセラミックの薄膜を工具にコーティングする技術です。筆者は、プラズマを用いるセラミックコーティングをテーマとして研究活動を推進しています。化学の授業において、気体・液体・固体からなる物質の三態を学習しますが、プラズマは、イオン・電子・蒸気から構成される第四の物質の状態と定義されます。高いエネルギー状態にあるプラズマを用いることにより、新しいセラミックコーティングを創製することが可能になります。
図3では、放電現象の一種であるアーク放電を用いて、プラズマを発生させコーティングを行っている様子を観察しています。ここでは、複数の金属を混合させた固体原料に電気エネルギーを与え金属をイオン化し、それと同時に窒素ガスを導入しています。プラズマ内で金属イオンと窒素イオンが結合し、数マイクロメートルの厚さを持つセラミック薄膜が合成されます。
近年では、生産効率の向上を目的とし、厳しい加工条件下で切削工具が使用されているため、セラミック薄膜の機械的性質および耐熱性のさらなる飛躍が求められています。プラズマを上手にコントロールすることによりセラミック薄膜に向けられているニーズに対応ができるものと考えています。
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