再生可能エネルギーの1つである太陽光発電(太陽電池)は、カーボンニュートラルを実現するためには欠かすことができない重要な技術です。現在、広く普及され、家の屋根やメガソーラー等に使われている太陽電池は、シリコンなど無機物の半導体を発電材料として用いています。このようなシリコン太陽電池は、発電効率はよいのですが、固くて重いという特徴があります。カーボンニュートラルを推進するには、太陽電池の導入量をもっと増やさないといけませんが、固くて重いと設置場所が限られてしまうという問題があります。また、高温(数百℃以上)や高真空下での製造工程が用いられるので、製造するために多くのエネルギーを使ってしまうという問題もあります。
一方、最近では「有機薄膜太陽電池」という新しい太陽電池の開発研究が進んでいます。有機薄膜太陽電池では、発電材料としてシリコンのような無機物ではなく、炭素や水素を中心とする元素で出来た有機物の半導体を使います。有機物の半導体は溶剤に溶かすことができるため、塗布により太陽電池を製造することができます。塗布法であれば製造工程における温度はせいぜい100℃くらいなので、製造に使うエネルギーを大幅に減らせるため、低環境負荷であり、低コスト化も期待できます。また、低温で塗布できるので、プラスチック基板(数百℃だと融けてしまう)上に作製することもできるため、柔らかくて軽いという特徴があります。さらに、シリコンに比べて光を吸収する能力が高いので、発電層の厚みを数百ナノメートルとシリコンの1000分の1程度まで薄くして、シースルー型にすることができます。このように、有機薄膜太陽電池はシリコン太陽電池にはない柔らかい、薄い、軽いというメリットがあるため、ビルや住宅の壁などの垂直面やテントなど曲面や耐荷重性の低い場所、あるいは窓や農業用ビニールハウスなど光透過性が求められる場所など、シリコン太陽電池では設置が難しい場所への導入が期待されています。
有機薄膜太陽電池の発電材料、有機物の半導体、の1つはπ(パイ)共役系高分子と呼ばれる高分子材料です。これは、2000年ノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生が開発した「ポリアセチレン」を基に発展した材料です。炭素−炭素二重結合と単結合の繰り返し構造を持つ高分子で、光を吸収して電子を生成することができるため、太陽電池に用いることが出来ます。発電能力はシリコンの2分の1から4分の3程度なので、これを向上させることが課題です。広島大学では、より発電能力の高い新しいπ共役系高分子の開発研究を推進しています。広島大学で開発したπ共役系高分子を搭載した有機薄膜太陽電池の発電効率は、日本国内では最も高く、世界的に見ても最高水準にあります。様々な企業とも共同研究を進めながら、カーボンニュートラル推進に貢献できるよう研究開発を行っています。
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