2021年11月19日
信越・北陸地区
新潟大学 工学部 工学科 電子情報通信プログラム
准教授 菅原 晃
再生可能エネルギーは、発電においてCO2を排出せず、持続可能なエネルギーで、世界的に導入が進んでいます。しかし、風力発電は、時間とともに出力が変化します。大規模なウインドファーム出力を送電網に接続すると電圧や周波数が変動します。そこで、エネルギー貯蔵装置と組み合わせることで電力を安定させますが、その電力容量、サイズ、応答速度、コストなどの制約があります。揚水発電は、通常は夜間の余った電力で水を汲み上げ位置エネルギーに変換し、昼の電力需要が高い時間に水力発電します。容量と寿命においては、他の貯蔵装置より優れていますが、風力発電のように変動が激しい発電に対し間欠運転による電力の安定化は困難です。そこで、本研究室では、揚水ポンプとしてアルキメデスポンプを使います。アルキメデスポンプは、らせん状の形状で回転することで水を汲み上げます。紀元前に農業用水の汲み上げのために発明され、佐渡金山では坑内に湧き出た水の汲み上げに使われました。人力による回転で水を汲み上げるため効率が良く、電気エネルギーから水の位置エネルギーへの変換効率は60%以上です。風力発電による電力が休止し回転が停止しても水はその場に保持されるため間欠運転が可能です。ここでは、アルキメデスポンプを用いた海水揚水発電で、原子力発電一基分に相当する1000MW級の大規模風力発電の電力安定化について紹介します。
図1は、風力発電と組み合わせるアルキメデスポンプを用いた海水揚水発電の概略図です。風力発電機は、陸上および洋上にウインドファームを構成します。また、海岸近くの標高500m級の山の中腹に貯水池を設けた揚水発電と連系した発電システムを構成します。天気予報の風速予測から前日に発電計画を設定しますが、風速は時間とともに大きく変動するためウインドファーム出力も予想通りにはなりません。そこで、予想よりも風が強い時はアルキメデスポンプで海水をくみ上げ、風が弱い時は水力発電で補います。システム全体で電力を安定化して電力系統に電気を供給します。
図2は、アルキメデスポンプ模擬実験装置です。アルキメデスポンプは、モーターで回転させ海に見立てたコンテナの水を汲み上げます。水の量は、右側バケツの下の重量計で測定し、モーターの電力とともに時間変化をデータロガーで記録します。インバーターでモーターの回転数を制御し、特性測定結果から最適な運転制御法を検討します。
次に、数値シミュレーションを行います。洋上ウインドファームの定格出力を1000MW(2MW×20基×25基)、水力発電の定格出力を90MWと仮定します。任意の地点において、天気予報による風速予測から翌日の時間ごとのウインドファーム出力の計画を策定します。水力発電の起動時間による6分の遅れを解消するため、実際に観測される風速データから統計的手法により起動開始時刻を特定します。図3にシミュレーション結果の一例を示します。この時間帯の天気予報によるウインドファーム出力予測は460MWです。システム出力検知だと、電力不足が発生する時刻1800秒で水力発電を起動開始するため、時刻2200秒で50MWの出力不足になります。本研究では、この電力不足を解消するため、ウインドファームの最も風上となる地点の風速観測データを基に起動遅れの解消を図ります。自然が相手なため、時刻9700秒のような想定を超える風速変動が生じることもありますが、周波数変動の許容値である0.2Hz以内の収めるような制御法の確立を目指します。
原子力発電一基分に相当する1000MWの洋上ウインドファームの出力安定化について、間欠運転が可能なアルキメデスポンプを用いた海水揚水発電を提案し、模擬実験装置を用いた運転制御の実験と数値シミュレーションを紹介しました。日本は周囲を海で囲まれているため、洋上風力に適していますが、変動が激しい風力発電の大量導入はチャレンジングな研究課題です。気象庁のスーパーコンピュータを用いた気象予測の精度は飛躍的に向上していますが、実際に観測される風速との差はゼロではありません。数学の統計的手法を活用し、最大限風力発電の電力を電力系統に供給し火力発電のCO2排出を抑えることができるような制御法の確立を目指します。中高生の皆さん、ぜひとも新潟大学で一緒に研究活動ができることを楽しみにお待ちしています。
参考文献
掲載大学 学部 |
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