電気分解を利用した電気メッキに対して、電気分解によらないメッキ法を化学メッキ、または無電解メッキと呼ぶ。無電解メッキでは還元剤との化学反応によって金属イオンを還元し、金属単体として被処理材表面に析出させる。したがって、金属はもちろん、プラスチック、ガラス、陶磁器などの導電性のない材料に対しても、表面をメッキすることができる。
金属イオンが溶けている溶液に、還元剤を加えると金属イオンは還元されて、金属単体として析出する。例えば、ニッケルイオンは次亜リン酸イオンによって還元され、金属のニッケルとして析出する。つまり、溶液中にニッケル微粒子が析出する。この析出を溶液中ではなく、被処理材料表面で優先的に析出させるために、触媒核となる金属微粒子を被処理材料表面に吸着させる触媒化処理が必要となる。
Ni2+ + 2e- → Ni ニッケルイオンの還元
H2PO2- + H2O → H2PO3- + 2H+ + 2e- 還元剤の酸化
ペットボトルの内側を、金、銀、銅で化学メッキする。
ペットボトルの前処理
ペットボトルの洗浄
ペットボトルを食器用洗剤、クレンザーでブラシを使って洗浄する。
各種溶液の調整
1%フミン酸溶液:フミン酸0.1gを精製水100mLに溶解する。
塩化スズ(II)溶液:SnCl2・2H2O 1.0gを濃塩酸1.0mLに溶解し、精製水を加えて1Lにする。
塩化パラジウム溶液:PdCl2 0.1gを濃塩酸1.0mLに溶解し、精製水を加えて1Lにする。
触媒化処理
約10mLのフミン酸溶液をペットボトルに入れ、蓋をして1分間よく振る。ペットボトルの内側がまんべんなくフミン酸溶液で濡れるようにする。フミン酸溶液を捨て、精製水をペットボトルに入れ、蓋をして1分間よく振って水を捨てる。塩化スズ(II)溶液をペットボトルに入れ、蓋をして1分間よく振る。塩化スズ(II)溶液を捨て、精製水で洗浄する。塩化パラジウム溶液をペットボトルに入れ、蓋をして1分間よく振る。塩化パラジウム溶液を捨て、精製水で洗浄する。
金メッキ
ヨウ化–金酸溶液の調整
金箔(4cm×4cm) 5枚(16 mg)を希ヨードチンキ7mLに溶解する。【写真①】
メッキ処理
前処理の終わったペットボトルに2.4gのアスコルビン酸と水30mLを入れる。
ヨウ化金酸溶液を加えるとヨウ素が還元されて直ちに色が消える。【写真②】蓋をしてペットボトルをよく振る。ヨウ化金酸溶液10℃以下に冷やしておく方が良い。しばらく振り続けると、徐々にペットボトルの内側が金メッキで覆われる。金メッキの付着量が少ない場合は、紫色の金コロイドとなる。【写真③】溶液を捨て、再度メッキ処理を繰り返すと金メッキができる。【写真④】
銀メッキ
試薬の調整
硝酸銀溶液:硝酸銀1.7g、エチレンジアミン2mLを水に溶かして全量を50mLにする。
1.5%グルコース溶液
1.0mol/L水酸化ナトリウム溶液
メッキ処理
前処理の終わったペットボトルに、硝酸銀溶液5mLと1.5%グルコース溶液5mLを加え、蓋をしてよく振り混ぜる。これに1.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLを加え、蓋をして振り混ぜる。ペットボトルを横にして内壁が溶液で濡れるようにする。全体がメッキされたら、溶液を捨て、ペットボトルの内部を水で洗浄する。【写真⑤】メッキ膜厚が大きくなるとメッキが剥がれやすくなる。
銅メッキ
試薬の調整
0.05 mol/L EDTA溶液: 2,2’-ビピリジル10mgをエタノール1mLに溶解し、ETDA2Na・2H2O 9.3g、精製水約200mLを加える。
0.05 mol/L CuSO4溶液: CuSO4・5H2O 6.2gを、約25mLの精製水に溶解させた後、EDTA溶液と混合する。
メッキ溶液:CuSO4溶液に37%ホルムアルデヒド10mLを加える。使用する直前に6M NaOHを滴下することによってpH12に調整し、その後精製水を加えて1Lにする。
メッキ処理
前処理の終わったペットボトルに、メッキ溶液10mL程度を加え、内壁が濡れるように静かに降り混ぜる。ドライヤーや湯浴を使い、70℃程度に加熱すると少しずつ銅メッキが現れる。【写真⑥】時々ペットボトルのキャップを緩めガスを抜く。全体がメッキされたら、溶液を捨て、ペットボトルの内部を水で洗浄する。メッキ膜厚が大きくなるとメッキが剥がれやすくなる。
金は王水に塩化金酸イオン[AuCl4]-となって溶けることが知られているが、ヨードチンキにもヨウ化金酸イオンとなって溶解する。ヨードチンキはヨウ素とヨウ化カリウムを水/エタノール混合溶媒に溶かしたものであり、薬局等で市販品を容易に手に入れることができる。
I2 + I- → I3-
2Au + I3- + I- → 2[AuI2]-
[AuI2]- + I2 → [AuI4]-
[AuI4]-として溶解しているAu3+の金イオンをアスコルビン酸で還元して、金コロイドを発生させる。このとき過剰に存在するI2も還元されてヨウ化物イオンとなる。
[AuI4]- + 3e- → Au + 4I-
I2 + 2e- → 2I-
硝酸銀にエチレンジアミンを加えると、安定な銀錯体が生成する。グルコースは還元剤として働き、酸化されてグルコン酸イオンとなる。銀イオンを還元する際、塩基性条件が必要であるが、適切な配位子で錯体にしないと酸化銀として沈殿する。アンモニア性硝酸銀溶液(トレンス試薬)を使うこともあるが、爆発性の化合物が生成する可能性がある。
Ag+ + 2 H2NCH2CH2NH2 → [Ag(H2NCH2CH2NH2)2]+
[Ag(H2NCH2CH2NH2)2]+ + e- → Ag + 2 H2NCH2CH2NH2
銀イオンと同様塩基性では水酸化物として沈殿するので、銅イオンを錯体として溶解させるために、キレート配位子であるEDTAと2,2’-ビピリジルを用いる。還元剤であるホルムアルデヒドは酸化されて、ギ酸となる。
H2C=O + 3OH- → HCOO- + 2H2O + 2e-
取り扱いに注意を要する試薬を扱う。実験で生じる廃液は、適切な処理が必要である。実験は専門家の指導のもとに行うこと。
坂田一矩ら「理工系化学実験」東京教学社(2009)
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