地球温暖化対策として太陽電池などの再生可能エネルギーの利用拡大に注目が集まっているが、単結晶シリコンを用いたものが太陽電池市場の9割近くを占めている。シリコン自体は二酸化ケイ素または珪酸塩として地殻中に豊富に存在するが、単結晶シリコンとするには還元・精製・結晶化が必要で多大なエネルギーを必要とする。
シリコンではなく有機・無機ペロブスカイト結晶を光吸収層として用いたのがペロブスカイト太陽電池であるが、その特徴として図1のように前駆体が有機溶媒に可溶で、真空装置など大掛かりな装置を用いずに、前駆体を塗って150℃程度の低温での加熱乾燥で出来る点が挙げられる。このためガラス基板上だけでなく軽量でフレキシブルなプラスチック基板への成膜が可能で、幅広い場所に設置可能な太陽電池への応用も期待されている。
ペロブスカイト太陽電池のペロブスカイトとは灰チタン石(ペロフスキー石)で見いだされた結晶構造の1種(図2)である。図1の溶液状態では結晶化しておらずコロイド状に分散しているが、黄色の前駆体を基板に滴下して回転させて遠心力で溶液を伸ばした後、加熱乾燥すると溶媒が蒸発して基板上にペロブスカイト多結晶が生じる(図3)。この際に主溶媒であるジメチルホルムアミドのみ(CHP 0vol%)だと多数の穴があり表面が粗く灰色に見えるが、少量の高沸点の助溶媒(CHP 7vol%)を加えて溶媒の蒸発速度を制御すると穴が無く平滑な黒色の薄膜が得られる。更に適量のルイス塩基を加えると結晶核密度制御によりマイクロメートルサイズの大粒径の薄膜が作製可能である。
我々が実際に作製しているペロブスカイト太陽電池を図4に示すが、1.5cm×2.0cmのガラス基板に、8個の小さい太陽電池を設けており、その内の1つを測定する様子を模式的に示している。ペロブスカイト太陽電池の断面を電子顕微鏡で観察したのが図5である。ガラス基板の上に透明導電膜(フッ素添加酸化スズ)、酸化スズ、ペロブスカイト層、有機半導体、銀電極を積層しているが、ガラス基板を除くとその厚さは1マイクロメートル程度であり、光を吸収するペロブスカイト層は0.3マイクロメートルと結晶シリコン太陽電池の厚さと比べるとわずか約500分の1の厚さである。我々のグループでも20%程度の光電変換効率が得られておりさらなる高効率化・耐久化に向けて取り組んでいる。
掲載大学 学部 |
埼玉大学 工学部 | 埼玉大学 工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |