プラスチックが電気を通す! |
ペットボトルの材料のPET(ポリエチレンテレフタラート)やスーパーの買い物袋のポリエチレンは小さな有機化合物(高分子を合成する原料の低分子化合物の総称をモノマーと呼びます)が多数つながった「高分子」(ポリマーとも言います)です。普通の高分子は電気をまったく通しません。でも炭素と炭素との結合が二重結合と単結合が交互に並んだ共役(きょうやく)高分子は電気を少し流す性質を示します。炭素-炭素二重結合を形作っている内の1つはσ(シグマ)結合、もうひとつはπ(パイ)結合と呼び、この結合に関与している電子をそれぞれσ電子、π電子といいます。π電子は比較的動きやすいので、このπ電子が高分子の中を動いて電気が少し流れます。しかし共役高分子は電気が流れるといっても鉄や銅などの金属に比べればまだまだ電気は流れにくい化合物です。この共役高分子に臭素やヨウ素を加えると金属と同じくらい電気を通すようになります。これはπ電子の一部が引き抜かれて部分的にプラス(正孔)ができます(ドーピングと言います)。そのプラスを埋めるために隣のマイナスの電子(π電子)が動き、またその電子が抜けた場所にプラスができる。それが繰り返すことで電子がつぎつぎ動いて電気が流れます。白川英樹先生は共役高分子のひとつであるポリアセチレンの薄い膜を作る方法とドーピングによって共役高分子が金属のように電気をよく流すこと(導電性高分子)を発見して、2000年にA.J. ヒーガー氏、A.G. マクアダイアミッド氏と共にノーベル化学賞を受賞されました。
導電性高分子はどうすれば作れるのでしょうか?
大学の研究室や企業では特別な設備を使って合成しますが、ちょっとした工夫で簡単に作れます。
シャーレにモノマーのピロールを入れ、その上にパラトルエンスルホン酸鉄(III)溶液を塗ったPET製のフィルムを被せます。数分後、ピロールの蒸気が当たった部分は黄色から紺色に変わります。色が変わった部分の導通テストをすると発光ダイオードが点灯します。
協力:日本科学未来館
この実験は山口大学工学部のオープンキャンパスやスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の体験実験として
行いました。
山口大学工学部応用化学科のオープンキャンパス
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の体験実験
また、山口大学工学部では2000年ノーベル化学賞受賞者の「白川英樹」先生(筑波大学名誉教授)をお招きして、本学創基200周年記念『第3回「知の広場」学術講演会』を開催しました。講演会では、高校生を中心に約300名の参加者があり、白川先生の「子供の頃はどのようなことが好きでどのようなことを考えていたか」、「自然は未知にあふれた宝の山である」といったことなど、ご自身の歩んでこられた道をテーマとした分かりやすい説明に熱心に耳を傾けていました。
私たちの研究室では共役高分子の合成とそれを用いた応用研究を行っています。その一部を以下に紹介します。
モノマー溶液に触媒を加えることで共役高分子を合成することができます(化学合成)。私たちの研究室では硫黄を含んだ共役高分子のひとつ、ポリチオフェンを合成しました(下図)。このポリチオフェンを溶かした溶液は橙色になります。この溶液に銅イオンを加えても変化しませんが、リチウムイオンや亜鉛イオンを加えると薄黄色や赤色に変化します。さらにこの溶液に近紫外線(354nm)を照射すると、何も入っていないポリチオフェン溶液と銅イオンを加えた溶液は黄色に、リチウムイオンや亜鉛イオンを加えた溶液はそれぞれに黄緑色と橙色に光ります。このように金属イオンを加えることで色が変わる現象はイオンクロミズム現象と呼ばれ、イオンの種類を識別することができるので、イオン指示薬やイオンセンサーへの応用が考えられます。
共役高分子はモノマー溶液中に浸した電極に数ボルトの電気を流すことで電極上に薄い膜として合成することができます(電解重合)。電気を通す透明ガラス(ITO:酸化インジウムスズ)の表面に電解重合でポリチオフェン膜を作成します。このポリチオフェン膜をシリコンスペーサー、ITOガラスのサンドイッチ構造にして中に電解質溶液を充填します。このセルのITOガラス間に約3Vの電圧を印可(いんか)して、プラスとマイナスを交互に変えます。するとポリチオフェン膜の色が藍色~濃赤色で変化します。電気の力で色が変化することをエレクトロクロミズムと呼びます。液晶や有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)と異なり、この色は電気を流さない時も保持され、必要な時だけ電気を流して色を変えることができます。このようなエレクトロクロミズムを示す物質で表示素子を作成すると省電力型の掲示板や広告、さらに携帯型書籍などの電子ペーパーとして応用が考えられます。
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