2023年3月31日
東海地区
豊橋技術科学大学
最近、海洋プラスチック問題について、マスコミ報道が多くなっています。海洋プラスチックの多くは、陸域で環境中に排出されたものが河川を通じて、海洋に流出していると考えられています。それでは、実際にどの程度のプラスチックが流出しているのでしょうか。
現在、航空写真画像や気象データなど、環境に関する多くの情報がネットを通して容易に入手可能です。しかし、観測されていないデータは入手できません。モデルを用いて入手可能なデータから推計することも可能ですが、その推計値が正しいかどうかは、観測したデータと照合して検証する必要があります。このため、環境研究では、データを取得し解析するフィールド調査型研究も重要になります。
河川を通じて流出するプラスチックの量についても、観測データはほとんど存在しません。このため、日本学術振興会二国間交流事業 JPJSBP120198104の助成を受けて、世界で2番目にプラスチック類の海洋への排出量の多いインドネシアで、観測しました。
東南アジアの国々ではプラスチックゴミに限らず、廃棄物対策そのものが遅れており、都市部を除けばゴミの収集すらなく、家庭から出るゴミは家の裏や河川沿いに廃棄されています。近年、ゴミ中のプラスチック含有量は増加しているにもかかわらず、ゴミは従前通りに廃棄されていることに加え、経済発展に伴うゴミの廃棄量も増加しており、これらのゴミはスコールなど水の移動とともに河川に流出し、そのまま海洋へと排出されています。
学生が川の横断方向に並び、流れてくるゴミを10分間回収する方法やネットを用いた回収など、いろいろな方法を試しました。そして、ジャカルタ市内のいくつかの河川を見に行くなかで、フェンスの上部にフロートを取り付けて浮かせた装置(Floating booms)を河川の横断面に設置して、流下するゴミを回収していることに気づきました。川岸には油圧ショベルが設置され、溜まったゴミを陸揚げし、トラックに積んでゴミ堆積場に運んでいました。この回収したゴミの一部を譲り受けて分別をしたところ、ゴミに含まれるプラスチックの割合は平均で78%でした。その内訳は、商店などで渡されるレジ袋とペットボトルが半分以上を占める一方、日本で現在問題視されているストローは僅かでした。回収量から、このような回収装置がない場合の海洋への流出量を試算したところ、推計値は7.7~12.6 g/人/日の範囲であることが分かりました。現在、広く用いられているインドネシアからの海洋への流出量の推計値は18.9 g/人/日であり、その値よりは少ないものの、多量のプラスチックが河川を通じて海洋に流出している実態を明らかにすることができました。
なお、この研究結果は、国際誌のMarine Pollution Bulletin の182号に掲載されました。
科学研究費助成事業「インドネシアを対象としたプラスチック類の河川からの流出量の実態調査」を今年度から実施しており、河川で直接ゴミの回収を実施していないインドネシアの都市とその近郊の農村地帯の河川を対象として、プラスチックの流出量の調査を実施しています。また、日本でも同様の調査を実施し、比較することで、インドネシアの流出量の多さを明らかにするとともに、プラスチックの海洋流出量を削減する方策について、インドネシアの研究者と共同で検討していきます。
Plastic pollution in the surface water in Jakarta,Indonesia
Mega Mutiara Sari, Pertiwi Andarani, Suprihanto Notodarmojo, Regil Kentaurus Harryes, Minh Ngoc Nguyen, Kuriko Yokota, Takanobu Inoue
Marine Pollution Bulletin
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