三軸織物とは、通常の織物とは違い図1のように横・斜め・斜めの3方向から繊維を通して作られる織物です。通常の織物は縦糸と横糸で作られているので繊維方向の引っ張りには強いのですが、斜め方向に引っ張ると変形しやすいという性質を持っています。一方、三軸織物では各糸が60度の角度で織られているので極端に強度の低い方向をなくすことができる(構造上の弱点がない)というメリットがあります。そのため、軽くて強い材料を実現することができます。また、小さく折りたたんでも展開して元の形に戻る復元力が高いという特徴もあり、小惑星探査機はやぶさのアンテナにも採用されました。実は、福井県は古くから繊維産業が盛んで、日本有数の合成繊維織物の産地です。この非常に珍しい三軸織物を製造することができる福井の地元企業が、この三軸織物の優れた特性を活かして宇宙分野のみならず、スポーツ分野や建築分野に展開した素材を開発されています。福井大学大学院工学研究科安全社会基盤工学専攻の環境計画研究室(桃井研究室)では、この地元企業と同専攻の光環境研究室(明石研究室)等と一緒に、新しい天井材の開発に取り組みました。
まず、穴の形状が特殊なので三軸織物の膜材の通気特性について実験で調べました。膜材の前後に圧力差をつけて、どのくらい空気が流れるかを測定しました。しかし、これは膜材に対して垂直に空気が流れる場合の基本的な特性です。膜天井空調では、空調の吹き出し気流が必ずしも膜材に対してまっすぐ当たるわけではありません。そこで、図2左のように気流が膜材に対して斜めに当たる場合に、どの程度気流が膜材を通過するか、膜材を通過した後の気流がどのように流れるかについて、気流の衝突角度を変えながら煙を使って可視化を行いました。さらに、PIVという可視化画像から煙粒子の移動速度を計算する流速計測法により、風速を算出したのが図2右です。このように膜材の通気特性を把握した上で、図3上のように、気流解析を用いて膜天井を設置したときの効果を確認しました。冷房時にはエアコンの冷気が下降して人体に直接当たってしまい不快を感じる場所ができてしまいます。膜天井を設置するとしみ出すように冷気がゆっくりと下降するので快適な空調が実現できます。最終的には、図3下のように実際の建物に膜天井を設置して、解析で予想した通りの効果が得られていることを確認しました。
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