制御技術は、対象(システム)に働きかけて、対象の所望の状態を実現するための技術です。エアコンは、部屋(対象)の温度を設定温度(所望状態)に近づけるために、コンプレッサーの動作を常に調整していますが、この働きを実現しているのが制御技術の身近な例です。制御技術は、直接目にすることは少ないですが、あらゆる分野で使われてる分野横断的な技術です。ロボット、ドローン、自動車などは制御技術のかたまりと言っても過言ではありませんし、工場やプラントなども制御技術無しでは稼働しません。
対象を制御するために用いられる制御手法は、フィードフォワード制御とフィードバック制御の二種類に大別されます。御飯を美味しく炊くために、炊飯器は、あらかじめ決められた温度まで加熱し、また決められた時間ごとに温度を切り替えていきます。このように、あらかじめ決められた手順で対象に働きかける制御がフィードフォワード制御です。これに対して、エアコンでは、室内の温度をセンサーで検出し、設定温度との差に基づいてコンプレッサーの動作を調整しています。このように、制御したい量や制御対象の状態を観測しながら、働きかけを決定していく制御がフィードバック制御です。
どちらの制御手法を用いるにしても、性能の良い制御システムを構成するには、制御対象の特性-ある状態から次にどのような状態に変化していくのか、ある働きかけをしたときどのような変化が起こるのか-を把握することが必要です。しかし、一般に、ある制御対象の特性を十分に把握するには、多くの実験が必要となり、長い時間と多大の労力がかかります。このため制御対象に関する知識に多少の不確かさがあっても問題なく動作する制御システム(制御技術の言葉では、ロバスト(頑健)な制御と言います)で、対象の特性を自動的に把握して制御を実現するスマート(知的)な制御システムが実現できれば理想的です。
熊本大学大学院先端科学研究部ロボット・制御・計測分野では、不確かな対象に対して適応的に制御システムを構築する適応制御手法の研究・開発に取り組んでいます。適応とは、一般には、「生物の形態・習性などの形質が、環境の変化に応じて、その環境で生活・繁殖するのに適合するために変化する」ことを云います。適応制御は、「制御対象の特性変動や不確かさ(環境の変化)に応じて制御器(コントローラ)を自動調整し、制御対象の不確かさの如何に拘らず、常に望ましい特性を達成する」ことを目的とした制御手法です(図1)。この適応制御手法の理論的な研究とその実システムへの応用に取り組んでおり、最近では、提案した適応制御手法を用いた大型クレーンの制御や自動車エンジンの燃焼制御システムの開発を行っています。近年、ビッグデータの重要性やAIの活用が注目されていますが、これらの技術と適応制御手法とを融合させたスマート制御システム(図2)の構築に取り組んでおり、制御技術の高機能化・知能化による色々なシステムのスマート化を目指しています。
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