2019年1月18日
四国地区
高知大学 理工学部
化学生命理工学科・森・小﨑研究室では、水質浄化と土壌修復に関わる材料と分析技術の開発を様々な方法で進めていますが、今回は、土壌中の重金属を効果的に抽出・分析する装置について紹介します。
国内では土壌汚染対策法の施行に伴う農地、工場跡地等での土壌分析の需要が高まっています。特に、土壌中の重金属分析は、土壌診断、農作物の環境影響等に対応するため、迅速かつ高精度な分析結果が求められます。高精度な分析結果を得るための重要な項目に、土壌試料の「前処理」があります。
前処理の工程は、まず、採取した土壌試料を乾燥し、2 mmの粒径にふるいに分けした後、一定量の試料を測り取り、水、酢酸、塩酸等の水溶液の入ったビーカーやポリ瓶に入れ一定時間撹拌します。その後、遠心分離によって得られた上澄みを取り、残っている固形物をろ紙でろ過します。得られたろ液は分析装置に併せて適宜水によって希釈した後、抽出された重金属濃度を測定します。
以上の工程は回分式あるいはバッチ式と呼ばれ、いわゆる手作業で行います。上述のように、操作ごとに容器を移し替える作業を伴うため、試料が汚染されることがあり、分析結果に影響を及ぼすことがあります。この工程をそのまま自動化する技術は開発されておりますが、装置サイズが大きくなり、実験室レベルでの対応が難しくなります。
そこで、森らは土壌試料の汚染が生じにくい閉鎖系の環境で重金属抽出に用いる試薬を循環させ、ほとんど手を触れることなく土壌から重金属を抽出する装置を開発しました。この装置は、一定量測り取った土壌試料を専用のカラムに入れ、それを図1にある装置に接続します。土壌試料を充填したカラムの配管は、切替バルブとロータリーポンプにつながっています。操作工程は、まず、開放の状態で4方バルブから土壌充填カラムを含む流路内に抽出試薬を満たした後、8方バルブを切り替えて閉鎖系にします。閉鎖系の流路内に入った抽出試薬はロータリーポンプによって循環されながら、カラム内の土壌試料から重金属を溶出させます。その後、重金属を含む溶液は8方バルブを開放系に戻し、一定量の水を流すことで装置から排出されます。排出された試料は試薬瓶に回収、あるいはそのまま分析装置に運ぶことができます。この仕組みについては図2も参考にしてください。
国内で定められている土壌汚染対策法には、溶出量試験と含有量試験があります。溶出量試験は「汚染土壌から溶出した有害物質により汚染された地下水などの飲用リスクの評価」(環境省告示第18号)とあり、水を抽出液に用いて行います。一方、含有量試験は「重金属など有害物質の摂食および皮膚接触などの直接摂取リスクの評価」(環境省告示第19号)とあり、塩酸を抽出液に用います。本研究で開発した装置の性能を調べるため、溶出量試験と含有量試験で用いた試薬を用い、本法とバッチ式で行った重金属抽出量を比較しました。その結果、図3に溶出試験と含有試験で求められた重金属濃度をまとめてプロットしていますが、本法とバッチ式の分析値には高い相関があることがわかりました。
ここでのメリットは、本法を溶出試験に適応した場合、バッチ式と比べて試料量が1/20抽出試薬の使用量が1/25削減できます。含有量試験では、試薬量が1/4、抽出試薬の使用量が1/3削減できます。さらに、従来の溶出試験において指定された時間は6時間であるのに対し、本法では1~2時間(土壌試料の物性によって変わる)で、従来の溶出試験と同じレベルの重金属を溶出できます。
本法は地盤や地質に関する調査で用いられている逐次抽出法に応用できます。逐次抽出法は、土壌中の重金属の結合形態を推定するために、複数の抽出試薬を段階的に用いて重金属の結合形態を予測する土壌分析法です。この操作もバッチ式で行われるのですが、1つの検体に対し複数の試薬を段階的に反応させて行うため、溶出量試験及び含有量試験よりもさらに分析前の処理操作が煩雑になります。
ここでは、国内の湖で採取された底質(底質)試料を、溶出のしやすい形態から溶出しにくい形態の順に4段階に分け、抽出された重金属濃度を原子吸光光度計により定量した結果を示します(表1参照)。
フラクション | 結合形態 | 用いた抽出試薬 |
---|---|---|
1 | イオン交換体(主に塩化物) | 塩化マグネシウム |
2 | 炭酸塩と結合している形態 | 酢酸アンモニウム |
3 | 鉄-マンガン酸化物と結合している形態 | 塩酸ヒドロキシルアミンと酢酸 |
4 | コロイド状の有機物と結合した形態 | 濃硝酸と過酸化水素 |
図4に湖底質に含まれるカドミウム (Cd) の逐次抽出法で分析された結果を示します。これより、本法はバッチ式とほぼ同じレベルのカドミウムの分析結果を示しており、カドミウムが主にイオン交換体として存在していることがわかります。なお、銅、鉛、クロム及びヒ素はFe-Mn酸化物の形態(フラクション3)と有機物を結合した形態(フラクション4)の割合が高く、比較安定に土壌に存在しているものと予想されました。
本法を導入することで重金属の抽出操作から分析までに要する時間は、バッチ式と比べ約4時間短縮することができ、1検体あたりの全体の溶液使用量がバッチ式と比べ5分の1の量まで削減することに成功しております。
今回紹介した装置は、採取現場でも土壌の溶出試験ができるサイズにすることや、土壌の他にごみ焼却場の灰(焼却灰)、畜産廃棄物、農作物等の広い分野で活用することを目指しております。
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