2021年12月17日
関西地区
神戸大学工学部建築学科
高田 暁
換気することは良いことであると思われがちです。もちろん、室内空気に含まれる汚染物(におい、ウイルス、空中を舞うホコリなど)の濃度が高いとき、室内よりクリーンな屋外の空気と入れ換えることで、室内空気の質は良くなりますが、どのような場合も「換気=善」とは限りません。
ここでは、神戸大学附属図書館の協力を得て、学内の一つの書庫について調査を行った事例をご紹介します。書物の保存のため、この書庫では除湿機が用いられています。実測値を見ると、書庫内の絶対湿度が外気の絶対湿度がより低い時間帯が多くなっています(図1)。外気の湿度が室内よりも高い場合、換気することで、せっかく除湿している空間に外気の水分を持ち込むことになり、換気は除湿の邪魔をすることになります。もっとも、その空間に大勢の人が出入りするのであれば、換気が必要ですが、書庫の場合、人の出入りが少なく、換気の必要性が高くありません。今回調査を行った書庫の換気扇はOFFの状態でした。しかし、室内と屋外をつなぐ換気扇のダクト(管)を通じて、自然に外気が出入りしていることが分かりました(写真1のようにティッシュペーパーを細く切って換気の吹き出し口に当ててみて判明しました)。そこで、ダクトの出入り口をビニールシートで閉鎖し、書庫の換気量を減らすことが試みられました(写真1)。ダクトを閉鎖する前と後の書庫内の湿度を比較すると、ダクトを閉鎖したことで、書庫内の湿度が低めの値で安定していることが分かります(図2)。一方、解析モデルによるシミュレーション(書物や壁体の熱容量や湿気容量を考慮した室内の温湿度の計算)を行ったところ、換気用ダクトの出入り口を閉鎖するだけで、6月から12月までの機械による除湿量が2割近く減るという結果が得られました。つまり、この書庫では、換気を控えることで、書物にカビの生えにくい環境が得られ、なおかつ、除湿機の消費電力量が減少して省エネルギーの効果があるということが示されました。
貴重な図書をカビから守るために除湿するという直接的な対処はすぐに思いつきますが、換気量を抑えるという間接的な対処は盲点となりがちです。今回の場合、換気量を抑えることで、図書がカビから守られ、なおかつ省エネルギーが達せられるという2つのメリットが同時にありました。室内空気を衛生的に保ったり、適当な通風で涼を得たり、冬期の住宅内での結露を防止したりと、換気がプラスに働く場面は多いのですが、やみくもに換気をするのは愚かなことです。目的に応じて必要最小限の換気をすることが重要です。
参考文献
掲載大学 学部 |
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