大きな地震や津波などの災害が起きたとき、一番大切なのは「できるだけ早く、安全に避難すること」です。避難が遅れると、余震や火災などの危険に巻き込まれる可能性が高まります。また、多くの人が一度に避難所へ集まりすぎると、食料や水が足りなくなったり、トイレや寝る場所が不足して避難生活が苦しくなります。こうした事態を避けるため、自治体(市や町)は防災計画の中で「どこにどれだけの人が避難するのか」や「避難所のキャパシティは十分か」などをあらかじめ考えておく必要があります。
最近は、防災分野でもデジタル技術が活用されるようになり、これを「防災DX」と呼びます。神戸大学と理化学研究所の研究チームは、都市全体をコンピュータの中で再現して、大きな災害が起きたときにどのような被害が発生するかをシミュレーションする技術を開発しています。さらに、災害時の都市においてヒトの流れ(もしくは停滞)を高精度に予測する研究にも着手しています。
具体的には、スマートフォンの位置情報をもとに、ある時間帯にどこにどれくらいの人がいるかを推計します。そして、建物の被害や道路の通行状況などを考慮しながら、人々がどのように避難するかをシミュレーションします。たとえば、南海トラフ地震が夜中の3時に発生した場合を想定した実験では、神戸市の人口の約半分が避難する可能性があると予測されました。そのうち約9割は徒歩で3時間以内に避難を終えますが、倒壊した建物の影響で道路が通れなくなる場合(図1)には、避難のペースが15〜20%遅くなることがわかりました。また、沿岸部の市街地では道路が混雑して避難に時間がかかること(図2)や急勾配の坂道に避難者が集中し、高齢者や障がいのある人にとって安全な避難が困難となる経路があることが明らかになりました。避難所については、神戸市全体としては収容力に余裕があるものの、区単位では不足する恐れがあります。さらに、避難所ごとに見れば収容人数を上回る避難者が訪れて混雑する避難所が多く存在する点も課題として浮かび上がっています。
こうした研究によって得られた知見は、災害時に実際に役立つ避難計画をつくるための土台になります。さらに、避難所の配置を見直したり、道路を整備したりするなど、「災害に強い街づくり」を考えるうえでも重要な情報となります。都市全体を対象にしたシミュレーションは、これからの防災を大きく前進させる可能性を持っており、安心して暮らせる社会を実現するために欠かせない技術となっていくでしょう。
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