水中の有害物質を除去する場合、活性炭と呼ばれる特殊な炭の一種が良く使われています。家庭用の浄水器の中にも活性炭が入っているものがありますます。簡単に見るには、100円ショップ等で売られている安価な冷蔵庫用の脱臭剤の中の紙袋を開けてみてください。黒い顆粒が中に入っていますが、これが活性炭です。活性炭は空気中の悪臭物質を吸着(除去)する効果もあるので、昔から家庭用だけでなく、工場からの悪臭対策等の工業用としても沢山使われています。
この活性炭の多くは石炭や木材等の炭素を多く含有する素材を、酸素を遮断して高温で蒸し焼きにすることで炭素だけを残す、いわゆる炭化によって作られた炭を、さらに薬品や高温水蒸気で処理して、小さな孔を表面に沢山つくったものです(賦活化と呼んでいます)。極小な孔や凸凹が多いことで、同じ量(重さ)でも表面積が増え、沢山の物質を表面に吸着できます(図1)。表面積が大きいことは、物質の吸着に非常に有効です。
図1 炭の表面の凹凸と吸着能の違い
木炭は、木材(植物)の組織構造をある程度保った上で炭になるので、表面に沢山の凹凸や、内部にも微細な孔があり、活性炭ほどではないですが、水中の不純物の吸着作用があります。そのため、木炭も昔から水の浄化にも使われていました。木炭の伝統的な造り方を参考1に示しています。
一方で、アフリカ等では木炭(主に燃料用)の製造のために木を伐採し、ただでさえ木が少ないサバンナの植生破壊に繋がっています。そこで木材以外の植物原料から作られる炭が、世界各国で注目されています。これをバイオ炭(Biochar)と呼んでいます。
トウモロコシは世界的に多量に栽培されている穀物で、茎や芯は家畜の飼料にはなりますが、食用としては利用されないため農業廃棄物として捨てられる事も多いです。その芯は木質的で固いので、炭を作るのに適しています。トウモロコシを茹でて食べた後、芯の部分を見たことがあると思いますが、複雑な植物組織で大小の孔があいてますので(電子顕微鏡写真 左)、これを蒸し焼きにして炭を作れば孔の多く、吸着による水の浄化に有効かもしれません。
バーベキューを楽しみながらのトウモロコシ炭造りと、それを使って、水の中の不純物を吸着作用により除去する(水の浄化)実験にチャレンジしてみましょう!
トウモロコシの芯(乾燥後)の電子顕微鏡写真 (100倍) 協和機電工業(株) 上山氏提供
100μm(=0.1mm) 以下の孔が沢山あります。
トウモロコシの芯(乾燥後)の電子顕微鏡写真
(1000倍) 協和機電工業(株)
上山氏提供 炭化後も植物組織と思われる数μmの微細な構造(凹凸)が沢山あります。
<トウモロコシの芯の準備>
茹たトウモロコシの芯を乾燥させてさいの目に切ります。
大きさは、コーヒーの空き缶の飲み口から入る程度の1cm角程度がよいです。
乾燥は風通しのよいところや、日射のあるところで網かごに入れて乾燥させます。
乾燥は完全でなくてもOKです。
なお、乾燥させる前に切って、それから乾燥させたほうが効率がよいです。
<バーベキューコンロ とコーニー缶の準備>
少し大きめの木炭用のバーベキューコンロを準備します。(長時間の加熱のため、ガスコンロは使わないでください!)
木炭はバーベキュー用の燃料用のものでOKですが、3時間程燃焼させることを考えて準備してください。
1)で準備したトウモロコシの芯をコーヒー缶(スチール缶で短いもの)に、できるだけ沢山詰めてください
<トウモロコシ炭を焼く>
木炭に火をつけて、木炭が赤熱してきたら食材を焼く前に、2)で準備したコーヒー缶を中に入れてください。火傷に注意しながら、燃えている木炭の中に埋めるようにしてください。
中くらいのサイズのコンロの場合、短いコーヒー空き缶で最大3つ程度まで加熱できます。
3時間弱程(2時間半くらいでOK)、バーバキューを楽しみながら炭を焼いてください。
通常より、多めの木炭を使ってコーヒー缶を十分に加熱してください(食材が焦げないよう注意してください)。
火が弱い時はコーヒー缶が十分に加熱されるように、木炭を追加してください。
コーヒー缶の飲み口付近は木炭で塞ぐようにして空気ができるだけ入らないようにするのがコツです。
<消火と冷却>
バーベキューを終わるとき、コンロからコーヒー缶をトングで取り出してバケツの水で十分に冷却してください(10分以上)。熱せられた缶を水に入れた瞬間、沢山の水蒸気が発生しますので、水蒸気による火傷にも注意してください。
燃えている木炭が入ったコンロに直接に水を入れることは絶対にしないでください!燃えている木炭が飛び散ることがあり、大変危険です。
<炭の取り出し>
スチール缶は簡単に金ノコで切り裂けますので、十分に冷えたら、缶を切って中身を取り出してください。
金ノコで切るときや、切った後の缶で怪我しないようにしてください。必ず軍手をして作業してください。
以上を試したところ、トウモロコシの芯を一杯に詰めたコーヒー缶を6つ用意して、3缶づつを2つのコンロで焼成したところ(約2時間半)、乾燥後の重量でおよそ60g程を得ることができました。回収量は焼成時間や、乾燥度、缶の中への空気の入り込み具合で変化します。
茶こしや篩に砕いた炭を入れて、水道の流水で十分に洗ってください。
洗った水が透明になるまで十分に洗います。篩や茶こしの下にペットボトルや容器を置いて濁りを確認しながら洗ってください。
また、スプーンや棒等ど緩やかに炭をかき混ぜながら洗うと効果的です。強く混ぜると炭が壊れますので注意ください。
篩の下にキッチンペーパーを当てて、炭の水分を吸い取り、炭をアルミホイルで造った皿の上に乗せ、オーブン(トースター)等で十分に乾燥させます(150℃~180℃、あるいは強度で弱〜中、20~30 分程度)。乾燥後取り出してください(軍手やキッチン用のオーブンミトン等を使用して火傷に注意)。
広く散らばすと乾燥が早い
乾燥した炭
<500倍希釈溶液の作成>
魚病治療用のメチレンブルー原液 (0.82g/100ml)を少量用の計量カップで10mL計り取り、500mLの計量カップに入れ、500mLのところまで水を入れて希釈します(50倍希釈溶液)。
この濃度は0.0164g/100mL=0.0164% となりますが、以後は mg/Lの単位を使います。 なお、1000mg=1gです。
※今回の実験で使う水は色や濁りがなければ水道水でも大丈夫です。
可能であれば、スーパーやDIYショップ、ネット通販で買えるRO水(逆浸透水、純水)や精製水(イオン交換水)が望ましいです。あるいは軟水のミネラル水も使えます。
※メチレンブルーに強い毒性はないのですが、水生生物に影響を与える恐れがありますので、流しには絶対に捨てずに、廃液入れのペットボトルに一旦保存してください。後で適切な処理法を説明します。
透明で20〜50mLのプラスチックボトル、カップ、ガラス瓶(中身が歪まずに見えるものがよい)で同じものを10個以上用意します。
6本のプラスチックボトル等の全てに計量カップ等でできるだけ正確に10mL(容器の半分少し以下の容量に調整ください)水を入れておきます。
この最初の一本に入れた水の量と同じ量の(この例では10mL)の16.4mg/Lのメチレンブルー溶液を入れて、軽く撹拌します。
次に、この2倍希釈したメチレンブルー溶液から同じ量(10mL)を計り取り、次ぎの10mLの水が入ったボトルに入れて軽く撹拌します。
これを繰り返して、最終的に8.2mg/L、4.1mg/、2.05 (~2.1) mg/L、1.025 (1.0) mg/L、0.50125 (~0.5) mg/L、0 mg/Lのメチレンブルー溶液(標準濃度溶液)を作成します。
なお、0 mg/Lは希釈に使った水そのものです。
メチレンブルーを一種の水の中の汚れと見なして、トウモロコシの炭による吸着で水が浄化されることを調べてみましょう。
トウモロコシの炭に、濃度と体積の解ったメチレンブルー溶液を混ぜて、しばらく震盪すると、炭がメチレンブルーを吸着するため、次第に溶液の色が薄くなります。この色が薄いほど沢山のメチレンブルーが炭に吸着されたと考えられます。
今回の実験では、以下に示す手順で、実際にメチレンブルーが除去された量を測定してみましょう。
トウモロコシ炭の5mLを少量計量カップで計り取り奇麗な蓋つきの透明プラスチックボトルやガラス瓶に入れる。20~50mL程度の容積のものがよいでしょう。
一定量、一定濃度のメチレンブルー溶液を炭を入れたプラスチックボトルやガラス瓶に入れて、1秒くらいの周期で上下左右に10分くらい振ってください(震盪)。このとき、入れたメチレンブルー溶液の容量と濃度は重要ですので、必ず、ノートに書いておいてください。
炭の量、最初のメチレンブルーの溶液の濃度を、いろいろ変えて吸着効果を見てみましょう。
(メチレンブルーの溶液濃度は10mg/L~2mg/Lの間がよいでしょう)
震盪後、30分くらい静置すると、炭の粒子の多くが沈殿します。その上澄みをスポイドで回収し、別のプラスチックボトルやガラス瓶に入れてください。炭の近くを吸うと、炭の粒子で濁ったサンプルになり、うまく濃度をはかれませんので注意してください。
メチレンブルーの吸着実験で採取したトウモロコシ炭による吸着後のメチレンブルー溶液の上澄み溶液と、メチレンブルー標準溶液の色の濃さを比較して濃度(範囲)を決めます(図2)。
標準溶液を白い紙を背景にな並べて、そこに測定対象のサンプルの色と比較していきます。
一番近い色、あるいは、近い2つの色の間ということで、濃度を測定します。
下記の例では、サンプルAのメチレンブルー濃度は0.5mg/Lに近いと思われます。
サンプルBは0.5mg/L以下で、0.2~0.3mg/Lと思われます。
*スマートフォンのカメラとLEDライトを使って、濃度を測定する方法を参考3に示しました。
図2 メチレンブルーのトウモロコシ炭による吸着の実験の結果
実験の中でメチレンブルーの青い廃液が沢山出ると思いますので、廃液用ペットボトル(1.5L~2L)を数本用意してください。
※計量カップで濃いメチレンブルーを計った後に、少しメチレンブルーが残りますが、いきなり流水で洗浄せずに、いちど水を入れて洗い、このすすぎ水は廃液用のペットボトルに入れてください。
廃液の量が多くない場合(2L以下程度)の場合は、吸水性の高い(古)紙等(布でもOK)を用意します。
もったいないですが、キッチンペーパー等が一番よいです。
それをポリ袋に入れて、そこに廃液を少しづつ入れて水を吸わせます。
紙の量は多くても2/3程度がよいでしょう。
それを、生ゴミとして捨ててください。
廃液の量が多い場合は、DIYショップで入手できる吸水土嚢の中にある吸水ポリマーの白い顆粒(粉末)を使ってください(図3 ①)。
吸水ポリマーを取り出して、ポリ袋に少量ずつ入れてください。
そこに、メチレンブルー廃液を入れポリ袋の上から揉んでください。
少し時間が経つと固まりゼリー状になります(図3 ②)。
さらに廃液を追加して、固まるかどうか見ながら、必要なら吸水ポリマーを追加してください。
それを、生ゴミとして捨ててください。
図3 ①
図3 ②
メチレンブルー廃液を吸って膨張しゼリー状になった高分子吸水ポリマー
次のような表を作って、実験の結果を整理してみましょう。
上の数値は、図2、図3で例として示したサンプルA, B の測定結果です。 では、トウモロコシの炭にどのくらい吸着したかを計算してみましょう。
サンプルAの最初のメチレンブルー濃度は 4.2mg/L で30mLありますので、
トウモロコシ炭(5mL)吸着量は前と後の量の引き算ですから =0.111mg (= 0.11mg) サンプルBも、同じように計算すると、トウモロコシ炭(5mL)吸着量は約0.05~0.06mgとなります。
炭の量は同じでも、最初に入れるメチレンブルーの濃度が高い(濃い)と多くのメチレンブルーが吸着され、メチレンブルーの濃度が低い(薄い)と吸着される量が少なくなります。
図4で、この結果と関係する吸着平衡の原理を説明します。
さらに、参考3に機器を使って正確に濃度を測定した場合の結果を示します。
皆さんは、炭の量や、振る時間などの条件も変えて、吸着効果にどのように影響するか実験で確かめてみてください。
吸着は活性炭や木炭等の吸着体と吸着物質(吸着される分子)との間に働く引力が原因です(A)。電気をまったく持っていない有機物分子の間でも、弱い引力が働きます。これを分子間力と呼びます。また、炭のような固体の表面と溶液中の分子の間でも働きます。
また、分子の熱運動が重要です。分子は常温でも激しくランダムに動き回っています(A)。
図4 (A)
ある分子が熱運動で吸着体に近づき、分子間力で吸着体表面に吸着されます(吸着=分子間力での弱い結合)。吸着体の原子や分子自身もブルブルと熱で振動しており、吸着されていた分子が再度離れることもあります(解離)。
この吸着と解離が繰り返され、平均として一定量が吸着されることを吸着平衡と呼びます。平衡に達すると、それ以上、吸着体は吸着しません。
以上の原理から、 吸着体の周囲に分子が少ない(気体:圧力が低い、溶液:低濃度)場合(B)は、吸着する量も少なくなります。 一方、(吸着体の周囲に分子が多く(気体:圧力が高い、溶液:高濃度)場合(C)では、吸着する量は多くなります。
図4 (B)
図4 (C)
しかし、吸着体の表面で吸着可能な面積は有限であるので、圧力(濃度)が高くなっても、吸着量は一定になります。より詳しく、吸着平衡を知りたい方は参考2を参照してください。
木炭(竹炭)を小規模に造るために、炭焼き窯が昔から使われてきました。乾燥した木材は自分で燃えるので、密閉した土窯内で自身を燃やしながらその熱で炭化させて行きます。勿論、空気が十分にあると全て燃えてしまい、灰しか残らないので、空気の入りを調整して完全に燃え尽くさないようにします。作成には数日が必要です。高温(700〜1000℃)で造った炭は白炭といって硬質で、長く燃焼し、また電気を通します。低温(400〜700℃)で焼成した木炭は黒炭と言います。黒炭は電気を通しません。バーベキュー等で使われるものはこの黒炭です。
メチレンブルーの平衡濃度 Se (mg/L)
平衡濃度Seは、炭(吸着体)とメチレンブルー(吸着物質)を混合して十分時間が経ち溶液濃度が変化しなくなった平衡状態の溶液中のメチレンブルー(吸着物質)濃度です。メチレンブルー(吸着物質)の初期濃度ではありません。
高校の化学で学習する化学平衡の概念を用いれば、吸着現象をより詳しく理解できます。
吸着分子を今 MB(メチレンブルー)とします。炭等の吸着体上に吸着場所Cが沢山あると考えてください。これを表面の分子Cと考え、CとMBが結合することが吸着反応とすれば、化学反応(平衡)式は、
この式から、「上図:メチレンブルーの平衡濃度 Se (mg/L)」に示した吸着平衡の式を導けます(詳細は略)。ここで、 [MB・C]が炭への吸着量qを表し、[MB]が溶液中のメチレンブルーの平衡濃度Seです。
温度が一定(等温)であれば平衡定数Kは一定ですので、平衡状態での溶液中のメチレンブルーの濃度[MB] (=Se)が高いほど、 吸着量[MB・C](=q)が多くなります。
また、吸着平衡定数Kが大きければ吸着量も大きいことは明らかですが、吸着できる表面は限られているので、吸着可能量も限られ飽和してしまいます。この飽和値がqmaxです。
トウモロコシ炭の表面C(吸着できる部分)が多ければ([C]が大)、吸着量qも多くなります。従って、吸着平衡式のqmaxは炭の量(表面積)に比例することになります。
本文にもどるスマートフォンのカメラとアプリを用いれば、写真上の色を三原色、赤(R)、緑(G)と青(B)に分解してそれぞれの強度(濃さ)を測定できます。そこで、メチレンブルーの標準溶液の各濃度毎に写真を撮り、3原色の濃さを写真から測定して濃度との関係をグラフにすれば、そこから、未知の濃度のサンプルのメチレンブルー濃度を測定できます。
RGB値を取得するにはiOS(iPhone)では“カラコル”、アンドロイド携帯では”Color code finder”等のアプリで、写真上のタップしたところのRGB数値を読みとれます。R,G,Bの値は各々、0〜255の整数値です。サンプルボトルの中央付近で、5回以上はタップしてRGB値を記録して、平均値を使ってください。
見た目では青(B)がよいと思われましたが、左のグラフからは、メチレンブルー標準溶液の濃度とG(緑)の強度の間で、一番良い直線関係が得られました(10mg/L以下が適用範囲)。
従って、濃度が未知のサンプルに対して、Gの値を測定すれば、この直線からサンプルの濃度がわかります。もちろん、サンプルと標準溶液は、できるだけ同じ条件で写真を撮る必要があります。
図2のサンプルAとBの濃度をこの方法で測定すると、サンプルA=0.47mg/L, サンプルB=0.27mg/L となりました。
掲載大学 学部 |
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