2021年3月19日
東北地区
弘前大学 理工学部 自然エネルギー学科
准教授 島田 照久
脱炭素社会の構築に向けて、世界中で再生可能エネルギーの導入が加速しています。それに伴い、再生可能エネルギーに関わる研究開発は急速に発展しています。ただ、一口に再生可能エネルギーと言っても、関連する研究分野は非常に多岐にわたります。たとえば、各種の基盤技術に関わる分野、再生可能エネルギー資源に関する分野、電力系統やエネルギーシステムに関わる分野、法律や社会の仕組みに関する分野などが挙げられます。ここでは、弘前大学理工学部自然エネルギー学科で実施している、再生可能エネルギー分野への気象・気候情報の応用に関する研究を紹介します。
再生可能エネルギーの中で特に利用が進んでいるのが、風力エネルギーと太陽光エネルギーです。風力発電と太陽光発電の出力は、時々刻々変化する気象に応じて変動しますが、気象変化の影響を受ける再生可能エネルギーを「変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy)」と区別して呼びます(厳密には、多くの再生可能エネルギーによる発電出力は自然現象によって変動するので、広義には変動性再生可能エネルギーと言えます。しかし、世界中での導入量の多さと社会システムに与える影響の大きさから、現状では、変動性再生可能エネルギーというと風力と太陽光を指すことがほとんどです)。今後も導入が加速していく変動性再生可能エネルギーを最大限活用していくために、電力系統の柔軟性を高めるための仕組みの改善や技術開発が進んでいます。変動性再生可能エネルギーを最大限活用するための基盤は、風力と太陽光の出力予測です。出力予測とは、気象予報(天気予報)の技術を用いて、各地の風力発電と太陽光発電がどれだけ発電するのかを予測することで、エネルギー予報と言えるかもしれません。この出力予測をもとに電力系統の運用が行われます。変動性再生可能エネルギーの急速な発展・社会への導入により、気象・気候情報をより高度に利用してエネルギー分野に役立てるための研究開発が活発化してきました。エネルギー学分野と気象学分野の両方に関わる学問分野は、「エネルギー気象学(Energy Meteorology)」と呼ばれることもあります(図1)。
今後、再生可能エネルギーの中心となっていくと見通されているのが、洋上風力エネルギーです。洋上風とは海の上を吹く風(海上風)のことで、洋上風力発電とは海上に設置された風車で発電を行うことを意味します。洋上風力エネルギーの利用が進む理由は、海上の風速は陸上の風速よりも大きいこと、大規模開発が可能なことなどにあります。洋上風力エネルギーの利用を促進するためには、気象学分野は、たとえば、下記の問いに答える必要があります(図1)。風力エネルギー資源はどの海域で豊富なのか? ある海域の風力エネルギーの時間変動はどの程度なのか? 海上風の分布・変動を予測することはできるのか? このような問いに答えるためには、様々な観点から海上風の気象学的な理解をさらに進めていくことが必要です。図2は、人工衛星による海上風観測の一例です。海域全体でみると風速は数m/s以下のように見えますが、特定の海域では局地的に最大風速が12 m/sに達する強風が形成されています。広い海の上とはいえ、海上風の分布は決して一様ではなく、時空間的に大きく変動するのです。このような海上風の分布・変動を明らかにし、風の吹き方の特徴(風況)を様々な時空間スケールで把握できるよう、観測やシミュレーションを組み合わせて研究を進めています。
本稿を読んでくださった皆様が、再生可能エネルギーに関わる分野に興味を持ってくだされば幸甚です。大学・学部・学科の選択を考えていらっしゃる方は、弘前大学理工学部のホームページにぜひアクセスしていただき、興味のある分野があるかを調べていただきたいと思います(学科名や各研究室の研究テーマ名からは、再生可能エネルギーとの関係性が想像できないことも多々ありますが、実は再生可能エネルギーと重要な関わりを持つ研究分野も多くあります)。また、環境・エネルギー分野に興味をお持ちの方は、本稿中のキーワードでWeb検索いただくと、新しい発見があるかもしれません。近い将来、大学で私たちの研究活動に加わっていただけること、さらには環境・エネルギー分野で活躍し社会を進展させてくれる人が出てきてくれることを期待しています。
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