2021年1月8日
東北地区
福島大学 共生システム理工学類
木炭をはじめとした生物資源由来の炭をバイオ炭と呼びます。古くからもみ殻燻炭や木炭は土壌改良等に利用されていますが、近年はバイオ炭の農業利用が土壌中への炭素貯留として二酸化炭素削減の有効的かつ簡便な手法となりうるとして注目されています。また、バイオ炭は多孔質な構造を有しているため、水や空気の浄化材料としても利用されています。共生システム理工学類 浅田研究室では、バイオ炭と金属化合物などを複合した高機能な環境浄化材料を開発し、空気や水の浄化に利用する研究をしています。今回、光触媒である可視光応答型酸化チタンをバイオ炭に担持した高機能な環境浄化材料について紹介します。
木炭などのバイオ炭は多孔質な構造を有しており(図1)、大きな比表面積をもつことが多く、様々な環境汚染物質を吸着します。バイオ炭の多孔質構造は、炭の原料や炭化温度等により変化します。特に炭化温度の影響は大きく、一般的に1000℃位までは炭化温度が高いほど細孔が発達し、より多孔質な炭になります。通常、細孔が発達しているほど多くの環境汚染物質に対する吸着性能は高くなります。バイオ炭は高い吸着性能のために水や空気の浄化材として利用されますが、浄化性能は主に吸着に依存ししていることから、吸着飽和するとバイオ炭の浄化性能は著しく低下します。
酸化チタン(TiO2)のような光触媒は光を吸収すると活性酸素種を生じ、酸化チタンの付近にある有機物を酸化分解する機能を有しています。光触媒は有機物を酸化分解できるために水や空気の浄化材料として利用されています。代表的な光触媒であるアナターゼ型と呼ばれる酸化チタンは390 nmより短い波長の紫外線を吸収して光触媒として機能しますが、紫外線は太陽光の約4%にすぎないため、屋外での利用においてはあまり効率が良くありません。これに対して酸化チタンの酸素を一部窒素で置き換えると可視光でも機能するようになることが知られています。しかし可視光で機能する光触媒においても、光が照射されれば持続的に有機物を酸化分解しますが、光が照射されなければ光触媒として機能しません。
私たちの研究室では、可視光応答型の酸化チタンを大きな比表面積を有するバイオ炭に担持することにより、高い吸着性能と有機物の酸化分解性能を併せ持つ高機能な環境浄化材料を開発しました。可視光応答型酸化チタンを担持したスギ炭の比表面積は407 m2/gであり、一般的な木炭と同程度の吸着性能を有していると考えられます。図2は開発した可視光応答型酸化チタンを担持したバイオ炭(スギ炭)の表面を電子顕微鏡で観察した画像です。バイオ炭の表面に酸化チタンの粒子が分散している様子が観察できます。
可視光応答型酸化チタンを担持したバイオ炭が水の浄化材として使用できるかを調べるために、メチレンブルー(MB)という青色の色素を用いて、LEDライトの光を照射し光触媒反応によるメチレンブルーの退色を調べる実験(図3)をしました。初めに180 µmol/Lの濃度のメチレンブルー溶液に可視光応答型酸化チタンを担持したバイオ炭を入れ、暗室内で撹拌すると吸着による効果のためメチレンブルーの濃度は約10 µmol/Lまで低下し、吸着平衡に達しました。吸着による濃度減少がなくなった後、LEDライトを用いて光を照射すると、メチレンブルー溶液だけの場合(MBのみ)ではメチレンブルー濃度の減少はほとんど見られませんでしたが、可視光応答型酸化チタンを担持したバイオ炭(Vis-TiO2-BC)は、光を照射するとメチレンブルー濃度が減少し、240分後にはメチレンブルーの濃度が光照射直前の約20%まで減少し、光触媒反応による青色の退色を確認することができました。通常の紫外線で機能するアナターゼ型酸化チタンを担持したバイオ炭(TiO2-BC)でも光照射後にメチレンブルー濃度が少し減少しましたが、これは使用したLEDライトに390 nmより短い光が少し含まれるためと考えられます。しかし、可視光応答型酸化チタンを担持したバイオ炭(Vis-TiO2-BC)の性能の方が高いことが分かりました。
現在は、まだ実験室レベルのメチレンブルーを対象とした実験ですが、今後は、揮発性有機化合物(VOC)などに対しても効果を確認しながら、環境保全・改善の分野で利用できるよう実用化に向けた研究を進めていく予定です。地球温暖化や資源の問題に対して、今後は化石資源ではなくバイオ炭のような生物資源(バイオマス)を活用した材料開発が持続可能な社会を構築するために重要となってゆくと考えています。
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