2017年3月17日
中国地区
岡山大学 工学部
機械システム系学科伝熱工学研究室(堀部教授)では、現代のエネルギーや環境問題に対応するため、熱エネルギーの有効利用に関する研究を行っています。様々な取り組みをしていますが、以下には新たな空調システムの紹介をします。
近頃では、各電機メーカーの努力によって省エネルギー性能の良い(電気代が安い)エアコンなどの機器が販売されています。様々な改良が加えられていますが基本的な仕組みはあまり変わっていませんので、さらに大幅に効率を良くすることは段々と難しくなっています。
仕組みが異なる空調システムとして、デシカント空調が注目されています。デシカント空調とは、デシカント(Desiccant:乾燥剤、吸着剤)を使って、空気の湿度を取ったり出したりして空調(温度や湿度のコントロール)を行うものです。このデシカント空調は、以前より存在する技術ですが、機器が大きくなる点などが普及の障害となってきました。一方で、デシカント空調は電気ではなく熱を主な動力源として作動するため、排熱など本来捨てられていた多様な熱を使用できます。さらにオゾン層破壊や地球温暖化に影響するフロン類の冷媒を使用しないため環境にやさしい機器といえます。現在、高機能な吸着剤などの材料開発や機器・システムの開発・研究が進められており、家庭用の一部機器や工場用機器など様々な分野で徐々に普及しつつあります。
岡山大学工学部伝熱工学研究室では、地元の企業と共同で開発した新しい材料を用いて効率的なデシカント空調システムの開発をしています。以下に、デシカント空調の特徴や原理、および新たなシステムの例を紹介します。
デシカント空調では、吸着剤と呼ばれる水蒸気を出し入れする物質を使います。一般に、固相界面等へある分子が付着する現象を「吸着」、分子が界面から内部へ入り込んでいく現象を「吸収」といいます。さらに、吸着と吸収が同時に生じる場合には、「収着(Sorption)」という用語が使用されています。また、物質から分子が出る現象を「脱着(Desorption)」といいます。
吸着剤には、無機系のシリカゲルやゼオライトなどが用いられています。それらには非常に小さい孔(細孔)が数多くあり、1グラム当たりの表面積が数百m2となるため、水蒸気などの分子を多く吸着させることができます。シリカゲルはお菓子の袋にも湿気とりで入っていることがあります。
岡山大学工学部伝熱工学研究室では、従来の吸着剤に代わる新たな性能の良い物質として、地元企業と開発をした有機系収着剤を利用した研究をしています。有機系収着剤は、図1のイメージ図に示すように、ある点(架橋点)を支点として大量の水蒸気を取り込みながら膨れていきます。そのため、収着剤は一般のシリカゲル等よりも特に高湿度条件での吸湿性能が大きいものです。また、吸着材・収着剤から水分を取り出してもとに戻すために熱を使って加熱しますが、その温度を再生温度といい、これが40~80℃と低く、色々な熱が駆動源として使用できます。また、有機系であるため、図2に示すように、粉末状や繊維状への加工やハニカムロータやハニカムブロックへの塗布ができます。最近、様々なところで販売されている発熱する肌着は、この収着剤繊維と同様な仕組みで水蒸気を取り入れることにより温度が上昇するもので、研究対象としているのは、市販の物より非常に性能が良いものです。
デシカント空調は、吸着剤に水蒸気を取り込んだり(吸着:除湿、処理過程)、吸着剤から取り出したり(脱着:再生過程)して湿度をコントロールするものです。機器の組み合わせにより、加熱や冷却も行います。駆動源として熱を利用できることが大きな特徴ですが、使い方により必要なエネルギーを少なくでき、冷却して除湿(結露させて水分を取る)をしないため、ダニやカビ繁殖を抑制できる、などの利点があります。
システムは大別すると空気流路を入れ替えて除湿と再生を行うバッチ方式とハニカムロータ回転方式の二つのタイプがあります。ハニカムロータ方式は、吸着剤を塗布したロータを回転させながら、ロータの吸着させる部分に処理する空気を流入させ除湿を行い、再生させる部分に加熱空気を流入させ脱着(再生)し連続的に空調を行うものです。基本的なロータシステムは、図3に示すように吸着剤ハニカムロータ、顕熱(温度)交換ロータ、加熱器(熱交換コイル)から構成されています。外気等の空気は、まず吸着剤ロータの吸着側へ入り、除湿され温度が上昇した空気になり、顕熱交換ロータにより温度が下げられ、低湿度・中温度の空気となって室内に入ります。
一方、室内からの空気等は、顕熱交換ロータおよび加熱器にて温度が上げられ、ハニカムロータの再生側に流入しロータ内の水分を脱着して、外へ排気されます。
岡山大学伝熱工学研究室では、新たな有機系収着剤を効率良く利用するために様々なシステムの研究・開発を行っています。以下に例として2種類の研究を紹介します。
高湿度域で吸湿性が高い収着剤の性能を生かすために、一般の冷凍機を併用して処理する空気を冷やして、相対湿度を高めた状態で収着剤ロータへ導入するシステムを提案しています。このハイブリッドシステムは、図4の概要に示すように、一段目は圧縮式冷凍機により冷却除湿を行い、二段目でデシカントロータによる除湿を行うものです。収着剤を塗布したロータの使用により約50℃以下の温度でも再生が可能になるため一般の圧縮式冷凍機の排熱を再生に使用でき、外部から熱の供給を受けない単独運転が可能になります。これによって図5のイメージ図に示すように、夏期の除湿に加えて、冬期では、室内から室外へ排気する空気から水分を回収し凝縮させることにより、室内の加湿に使用する無給水の加湿運転も可能となります。
流動層とは容器内部に粒子を充填し、下部から気体や液体を流入させることにより粒子を容器内に留まった状態で激しく動かす(流動状態にする)システムです。流動状態の粒子は活発に動き回るため、熱や水蒸気などを均一に移動させやすい特徴を持っており、食品乾燥、ごみ処理炉、廃棄物処理、コーティングなど様々な用途に用いられています。岡山大学伝熱工学研究室では、流動層の特性を生かして空気と収着剤粒子間の水分移動を促進させることで効率的に除湿および再生を行い、高性能なデシカント空調システムを実現させるための研究をしています。例えば基礎的な研究として、図6に示す円筒容器に収着剤粒子を充填して下から空気を流す実験装置を用いて、粒子の運動状況や除湿挙動について検討しています。図7に示すように、空気の流速によって粒子の運動状態が異なることが分かります。さらに、循環型の流動層など様々なシステムについて検討を行っています。
最近のエネルギー・環境事情に対応するために、熱を有効利用する技術は非常に重要であり、岡山大学伝熱工学研究室では、デシカント空調を含め、多くの研究を進めています。
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