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環境への取り組み

 

沖縄における海洋バイオマス利用によるCO2固定化・新エネルギーの開発

 
九州・沖縄地区 2009年10月01日
九州・沖縄地区
琉球大学 工学部

火力発電所やゴミ焼却施設等の大型施設から排出される二酸化炭素を、沖縄の豊富な日射量と高い海水温を活用して、効率的に海洋性プランクトン藻類を培養(ばいよう)し、さらにその藻類によるバイオ燃料で新しいエネルギーの開発を行うことで、「炭素回生(植物にCO2を吸収固定させ、再利用する)システム」の構築を目指しています。
現在、沖縄県うるま市の協力を得て、基礎的な実験を行っておりますので、紹介します。

●研究概要

二酸化炭素の拡散削減については既に国際的な問題です。日本でも様々な対策が検討されていますが、最も効果的な方策として、火力発電所等における二酸化炭素(CO2)を、適切に回収し固定化を行うというものがあります。火力発電所から排出されるガス中のCO2濃度は約14%と非常に高く、大気中のCO2濃度0.034%に対して約400倍にもなります(表1)。このような大型施設から排出されるCO2を拡散することなく回収・固定化さらに再利用を行う「炭素回生システム」を実現すれば、CO2拡散削減および新エネルギー開発において非常に有益な方法となります。(図1)


「炭素回生システム」のプロセスは、1.まず火力発電所等における化石燃料(=石炭、LNG)使用によって排出されるCO2を、2.低コストで海水に溶かし込み、3.つぎにその高いCO2濃度の海水を用いて効率的に海藻類を増殖させ、4.最終的にはその海藻類を活用しバイオ燃料化または水産業への応用を図るというものです。
特に本研究のポイントとなるCO2溶解実験と海藻類の培養試験に関する基礎研究を、現在沖縄で進めています。これらは、CO2溶解実験を琉球大学工学部で、海藻の培養試験をうるま市海中道路“海の駅あやはし館”で行っております(図2)。

(1)逆転の発想によるCO2溶解技術

一般に液体中にCO2等の気体を溶解させる方法にはバブリングと呼ばれるエアレーション技術が用いられます。熱帯魚飼育の際の水槽への空気流入と同じ手法と思ってください。この手法は、単純かつまた安価にシステムを構築可能ですが、気泡が水面まで上昇する間に、液体中にその一部を溶解させるものであり、溶解しきれずに水面まで達した気泡内の大部分のガスは大気に拡散させます。そのため送り込んだ気体量に対して溶解した気体量が少なく効率が悪いのです。このバブリング方式に対して、本研究では新たに“無気泡溶解方式”を提案しました。これはバブリング方式が液体中に気体(気泡)を入れる方式に対して、気体中に液体を流入する“逆転の発想”による気体溶解方式です。本研究で用いるCO2溶解装置はこの手法を用いたものであり、加圧タンク内にCO2ガス(気体)を充満させ圧力をかけ、その中に海水(液体)を通過させることで海水中にCO2を効率よく溶解させます。その概略を図3に示しました。この気体溶解ではバブリング時に出る泡が発生しないこと、またタンク圧力を変えることで溶解能力を制御できる利点があります。タンク内圧力、溶解時間をコントロールすることで排ガス中CO2の全量を海水に溶解させることも、また、安価に大量のガスを海水中に溶解させることが可能となります。

(2)浮遊(ふゆう)型海藻類による高効率培養

一般に陸上植物に比較して海洋植物の成長は10倍以上です。これは、陸上植物が固体すなわち「土」の上で生育しているのに対して、海洋は液体である「海水」の活動力を利用するといった差に起因しています。今回の「炭素回生システム」でもこのような優位点に着目し、なおかつ排ガスから吸収したCO2を植物の成長に必要な資源として捉え、さらに成長速度を上げています。使用する海藻類として、高知大学・平岡雅規准教授が開発した“胞子及び発芽体の集塊化による海藻養殖法”手法によるアオノリ集塊を用いました。高知大学では本手法によりアオノリの10倍/週の成長を実証済みです(図4)。一般にアオノリ類は非常に成長速度が高く、CO2を効率的に吸収させるのに向いた種であることがわかっています。なおご存知のようにアオノリを含む通常の海藻類は岩などに付着し成長します。そのため、これまでの海藻養殖の場合、ネット等に海藻種苗を固定する方法が主でありました。しかしながらその方法は二次元面での養殖であり、高密度で養殖ができない、また海藻の生長がばらつくといった問題がありました。そのため養殖用水槽の単位面積あたりの収穫量を高めるために、高密度で浮遊養殖が可能となる“胞子及び発芽体の集塊化による海藻養殖法”が開発されました。これは海藻が胞子の段階で複数の海藻体が互いに連結するように操作し、発芽体の集塊を大量に作って養殖する方法です。この手法により養殖用水槽(将来的には養殖用海域)単位体積あたりの養殖量を数倍に高めることができ、高濃度CO2海水利用と合わせて高効率培養が可能となります。

おわりに:海洋バイオマス利用の将来

以上、沖縄における海洋バイオマス利用による研究取り組みについて述べてきたが、最終的に「炭素回生システム」を構築するには、大量栽培した海藻類のバイオ燃料化が必要となる。これについてはこれから試験する予定である。最後に本研究が本格的に大規模実証段階に入った場合、比較的大きな海水域による試験が必要となる。その際、例えば港湾施設内またはその沿岸地域で海藻類増殖の研究、さらに栽培漁業の実証化が行うことが可能となれば、周辺陸上・海上のインフラ設備に係るコスト削減さらに管理・生産物輸送の面でも有利となろう。今、新たな低炭素型社会が求められており、四方を海に囲まれた日本においては従来の枠組みに捉われない海洋バイオマス利用型「炭素回生システム」を構築することが、CO2の大幅な排出抑制と再利用を可能とし、日本における独自の環境技術を創生することとなるであろう。

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