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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

「LED光通信で音楽を聞こう」

2022年2月18日
群馬大学 理工学部 理工学基盤部門
鹿野 豊

はじめに

 何故、空間的に離れたところで音楽を再生しているにも関わらず、音楽を聴くことが出来るのだろうか?と疑問に思ったことはないだろうか?これは「情報」を伝達するという「光通信」という概念を理解する必要がある。情報は光が光っている状態(ON)と光っていない状態(OFF)という2つの状態を使っており、光がどのような状況においても1秒間に地球を約7周半進み、真っすぐ進むということを利用することで、現在のデジタル通信(インターネットや Bluetooth による通信)が実現されている。普段、何気なく使っている技術で中身を知らなくても使うことが出来るのだが、そのブラックボックスの中身をあけて、原理だけを取り出したものが今回の LED光通信の実験である。これには、音楽を電気信号に変換し、更に、それを光信号に変換させ、空間を伝播させた後、光信号を受信し、電気信号に変え、その電気信号を用いて音楽をスピーカーから出力させるという原理である(図1参照)。是非とも自分の好きな音楽を用意して、スピーカーからそれが流れるかを確認してみて欲しい。

図1 音声光通信の模式図図1 音声光通信の模式図

準備

  1. スマートフォンなどの音楽がかけられるもの
  2. 音楽が再生できるのから3.5 mm AUXオスケーブル(スピーカーに繋げるためのケーブル)【例:Lightning to 3.5mm オーディオケーブル (iPhone の場合)】
  3. 電池ボックス 9V(単3電池6本)【単4電池などでも可能】
  4. AUX IN端子のついたアンプ付きスピーカー
  5. ブレッドボード 2枚
  6. 抵抗器 100 Ω 1個
  7. コンデンサー 100 μF 1個
  8. LED素子 2個
  9. ブレッドボードを繋ぐケーブル 適当な数
  10. 3.5 mmステレオミニジャックDIP化キット 2個【今回使用したものとは違うが、DIP化セットをインターネット等で検索して購入すれば良い。】

注:4から9は「ブレッドボードパーツセット」と検索すると一緒に入っていることが多い。

図2 準備するもの図2 準備するもの

まずは作ってみよう

  1.  まずは音楽を送信する方の回路を作ってみよう。ブレッドボードに電池ボックスを繋げ、ワイヤーをうまく使うことで、間にLEDと抵抗が入った電気回路を作ってみる(図3参照)。電池ボックス、抵抗、LEDで一つの閉じた回路になっていることを確認する。ここで、1度電源を入れ、LEDが光っていることを確認する。この際、電気が光らなかった場合は、LEDの向きが正しく接続されているかを確認するのが良い。また、一瞬光った後にLEDが反応しなくなった場合は、過剰に電流が流れてしまい、LED素子が壊れてしまった可能性がある。この時は、新しいLED素子を用意すると共に抵抗値の値がもう少し高いものを選んで再度、同じ実験をやってみることをお勧めする。この際、電源を入れている間には、抵抗器に触れることは注意せよ。

    実験上の注意点

    抵抗には「ジュール熱」と呼ばれる物理法則によって熱が発生しているので、長い時間触っているとやけどをする可能性がある。電気回路素子がしっかりブレッドボードにさしてあるかを確認するために、素子に触る時には注意せよ。

    図3 LEDを光らせるための回路図3 LEDを光らせるための回路
  2.  次に、図3で作った回路に加える形で、コンデンサー、ステレオミニジャックDIP化キットが繋がるようにし、「LED、コンデンサー、ステレオミニジャックDIP化キット」でもう一つの一つの閉じた回路になるように回路を繋いでみる。ステレオミニジャックにスマートフォンなどの音楽をかけられるものを接続する。そして、電池ボックスの電源を入れ、音楽をかけてみる。そうすると、LEDの光が若干点滅していることが確認できる(図4参照)。ただし、場所とか様々な回路の条件によって点滅が目では確認できない場合があるので注意せよ。また、コンデンサーの値を大きくすることによって点滅がはっきりみえてくるようになる。これで、送信側の回路は完成である(図5参照)。

    図4 光発振用の回路図4 光発振用の回路
    図5 実際に送信用回路を作っている時の写真図5 実際に送信用回路を作っている時の写真
  3.  次に光通信をする受信用の回路を作ってみる。LEDとステレオミニジャックDIP化キットを一つの閉じた回路にして結ぶだけである。そして、ステレオミニジャックをスピーカーと繋ぐ(図6参照)。この際、アンプ付きミニスピーカーを用意し、音量を最大限まであげてようやく聞こえるくらいが一般的である。この時、アンプには別途電源が必要であるが、家庭用のコンセントから直接とるタイプだと電気ノイズが発生してしまい雑音が「ザッー」というのが流れてしまうので、電池やバッテリーで駆動できるポータブルのアンプ付きスピーカーを用いると綺麗に音楽が聞こえやすい。これで光受信用の回路も完成である。

    図6 光受信用の回路図6 光受信用の回路
  4.  ここから光通信実験のスタートである(図7参照)。

    図7 光送信側の回路と光受信側の回路のLED同士を近づけて光通信実験を行っているところ図7 光送信側の回路と光受信側の回路のLED同士を近づけて光通信実験を行っているところ
    1. スマートフォンなどからかける音楽を決め、再生できる状態にしておく。出来れば、自分が流してみたい音楽などにしておくと良い。今回、私は写真撮影に協力してくれた斎藤陽菜さんが作った音源を使用した。
    2. 電源ボックスの電源をONにし、光送信側の回路のLEDが光っていることを確認する。そして、音楽をかける状態にする。この時にスマートフォンなどのスピーカーなどから音が流れていないことを確認し、もし流れていたら、スピーカーの設定を確認する。
    3. 光受信側のアンプ付きスピーカーをつけ、LEDは光っていないことを確認する。
    4. 光送信側の回路のLEDと光受信側の回路のLEDとが「頭をあわせるように」近づける。うまくすると、スピーカーから再生した音楽が流れてくるはずである。
    5. うまくスピーカーから音楽が流れたら、徐々にLEDの距離を離していく。そうすると、徐々に音量が下がっていくことが出来るはずである。また、LED同士の置き方を変えると音楽が聞こえたり聞こえなかったりする。
    6. ある程度、LEDを離しても音楽が流れた状態になったら、その間に紙や手などでLEDの光を遮断してみると、音楽が聞こえなくなることを確認することが出来る。これにより、LEDの光を使ってスピーカーに音楽の情報を通信していることを確認できるはずだ。
    7. もっと知りたくなった人は次のような実験をやってみると良い。
      照明用の光ファイバーを追加で用意し、その先に光送信側のLEDを近づけてみる。すると、光ファイバーのもう一つの端から光が出ていることが確認できる。図8のように光ファイバーを曲げても、光が出てくることから、通常、真っすぐにしか進まない光を自由自在に曲げることが出来る性質があるということが確認できる。この原理には、光の「全反射」という性質を用いている。その光が届けられたもう一端を光受信側のLEDに近づけることで、再び音楽が聞こえることを確認せよ。ただし、照明用の光ファイバーでは光を少し外に逃がしてしまうように設計されているため、あまりLEDの光強度がないと音楽が流れない可能性がある。
      図8 照明用の光ファイバー図8 照明用の光ファイバー
    8. LEDには基本的には、赤色、緑色、青色の3色のLEDがある。今回の実験に用いた白色のLEDはこの3つLEDが中にあり、それを調整して光らせることによって、人間の目には白色に見えるように設計されている。現在では、様々な色、強度のLEDを比較的安価に購入することができる(図9参照)。この時、送信側、受信側のLEDを様々な色に変えて、音楽が流れるか流れないかを確認せよ。

      注:色の違いによる音楽が流れる、流れないを理解するためには、20世紀を代表する物理学者であるアルベルト・アインシュタインによって発見された「光電効果」という物理法則と色の違いによる光のエネルギーの違いを理解することによって説明することが出来る。どうして、このような現象が起こるのか考えてみよう。

      図9 様々な色の LED。青色発光ダイオードは日本人ノーベル物理学賞受賞者の赤崎勇、天野浩、中村修二 (2014年) らの発見により実用化された。図9 様々な色の LED。青色発光ダイオードは日本人ノーベル物理学賞受賞者の赤崎勇、天野浩、中村修二 (2014年) らの発見により実用化された。
    9. 電気回路記号を勉強していたら、今回の実験に関する「回路図」を書き出してみよう。また、「等価回路」と呼ばれる回路を考えてみて、そのブレッドボードでの実装方法を考えてみよ。すると、図10のような回路図が書くことが出来るであろう。
      図10 今回の実験で用いた回路図図10 今回の実験で用いた回路図

終わりに

 これらの実験を通じて、少しでも日常生活で使われているブラックボックスを覗き見することが出来たであろうか?普段は目には見えず、原理を知ることなく使っている技術を「カームテクノロジー」と呼ぶ時がある。一方で、このような技術を高め、我々の日常生活を豊かにするためには、何が必要であろうかという想像力と原理を理解することによる日々の技術進展の積み重ねとが絶妙に組み合わさることにより発展し続けるものである。この文章を読んでもらった皆さんが持ちえる豊かな発想と想像力を持ち続けながら、この「ブラックボックスの中を覗き見したいな」という好奇心がマッチすることにより、次世代の科学技術基盤を創造できるものだと信じている。もっと勉強してみようと思った人のために、各電気回路素子の役割をまとめてみた。今回の実験を基に、皆さんの好奇心が行動へと結びついてもらえれば幸いである。自分自身に正直に勉強してみたいものと向き合ってみましょう。

図11 LED光通信実験が成功した時図11 LED光通信実験が成功した時

それぞれの電気回路素子の役割

 ブレッドボードとはコンピュータやスマートフォンなどの日常的に使われている電気回路で用いられているプリント基盤や半田(はんだ)で接着することなく、電気回路を自由自在に設計するための基盤ボードである。図12のように、ブレッドボードの裏側は金属で繋がっており、繋ぎたい電気回路素子を穴に刺しながらつなげることが出来る。

図12 ブレッドボードの裏側図12 ブレッドボードの裏側

 電気抵抗は様々な種類があるが、今回使用した固定抵抗器の場合には真ん中にカラーコードと呼ばれる色を見ることによって「抵抗値」を見分けることが出来る(図13参照)。電流が過剰に流れてしまい他の電気回路素子が壊れてしまうものを防ぐために用いている。「オームの法則」と呼ばれる物理法則を用いることで、電気回路素子に流れる電流を計算することも出来る。

図13 抵抗器図13 抵抗器

 コンデンサーは電気を一時的に蓄える素子である。その容量は電気素量と呼ばれ、F (ファラド) = 1 C/V という単位で表される。ちなみに、電子1個の電荷は 1.602176634×10-19 Cと正確に定義され、今回使用した100μFでは、9Vの電位差があるところでは電子が約5.6 ×1015個貯めることが出来る素子となっている。図14のようにコンデンサーの端子は長いリード線がついている方が正極(プラス)であるということが決まっており、使用する向きに注意して使用することが必要である。

 また、電気回路で一方通行を実現するための電気回路素子を「ダイオード」と呼ぶ。そこで、特定の半導体でダイオードの素子とすると、そこから電流を流すと光を放つものが存在する。これを Light Emitting Diode の略でLED と呼ぶ。コンデンサーと同じく、正極(プラス)側のリード線が長くなっており、使用する向きに気をつけて使用することが必要である。今回の光通信実験をより良く行うためには、強い光を放つLEDを用いる方が良い。光を放つ強度を「光度」と呼び、cd (カンデラ)という単位で表される。この量がなるべく多いものを検索して購入するとより遠くの距離まで光通信できる可能性がある。

図14 コンデンサー(左)・LED (右) 今回は白色のものを使用した。図14 コンデンサー(左)・LED (右) 今回は白色のものを使用した。
図15 3.5 mmステレオミニジャックDIP化キット(番号がふってあるので、どの番号とどの番号を繋げばよいかは購入した際についている説明書を見て確認せよ。)今回の場合、1番と4番に繋げば、一つの閉じた回路が完成する。図15 3.5 mmステレオミニジャックDIP化キット(番号がふってあるので、どの番号とどの番号を繋げばよいかは購入した際についている説明書を見て確認せよ。)今回の場合、1番と4番に繋げば、一つの閉じた回路が完成する。

協力

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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