私は、脂質などの生体由来の分子の性質を明らかにし、それらの分子を使って生物が持つ巧みさを人工的に再現し、工業的に応用できたらと思って研究している。今にして思えば、この様なことに興味を抱くきっかけとなった子供の頃のエピソードを書こうと思う。
電池と豆電球を金属の針金でつなげば、豆電球が点灯するが、輪ゴムを切って作ったゴム線でつないでも、豆電球は点灯しないことを確かめる実験、実験と称するのは大袈裟であるが、私にとっては、これが生まれて初めて自分の手で行った実験である。これは通っていた幼稚園を介して定期購入していた『キンダーブック』の科学絵本に書いてあったことをただ再現したものであった。こんな単純なことであるが、本に書いてあることは、本当だ!といたく感動したのを昨日のことのように思い出す。同時にどちらも見かけは同じ太い糸のようなものでも、性質は物によって著しく違うことを、実感として理解したのであった。この実験を行ったのは幼稚園児の時ではなく、記憶は曖昧であるが、小学校に上がってから、幼稚園の時の昔の本を引っ張り出して、実験したものだと思う。時期は曖昧なのに、父親が植木用に使っていた針金で実験したことを、はっきりと記憶している。今は興味の中心は、生体分子の性質であるが、広い意味で物質の性質に興味を持つ契機となったのは、この「はじめての実験」だったと今になって思う。
私は、群馬県の北部で生まれ育った。そこは冬になると結構気温が下がる。小学生の頃、近所の沢で捕まえてきた沢蟹を、水槽に入れて飼っていた。その水槽は玄関の靴箱の上に置いていた。特に冷え込んだ冬の朝のことであった。朝起きて沢蟹の入った水槽を見てみると、水の半分くらいが凍っていて、沢蟹の足は氷の中に閉じ込められていた。全く動かなし、完全に固まっているように見えた。沢蟹は死んだと思った。太陽が昇って、日差しが玄関の奥まで届く時間になって、ふと見てみると半分溶けた氷の中で、沢蟹が触覚を動かし、足を動かさそうとしていた。死んだ生き物が蘇ったと思った。今思えば、体内凍結を運よく逃れ、低温のため体が動けなくなって固まっていただけであろうが。高校の時は、生物は苦手科目であって、大学は物理系に進んだが、この時の生命力に対する驚嘆した思いが、現在の研究テーマに繋がっているのだと思う。
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