太陽光には目に見える光(可視光)の他に紫外線や赤外線も含まれています。可視光には紫色から赤色までの光が混じっていて、雨上がりにできる虹は空の水滴で太陽光が分かれて赤色から紫色に見えます。紫外線は殺菌効果の他に日焼けや洗濯物の色落ちの原因になります。赤外線は物を暖めたり、触らなくても体温が測れる体温計、エアコンやテレビのリモコンにも使われています。
光は電磁波といって、波の性質を示します。波と波の間隔(波長っていいます)の違いによって紫外線や赤外線、目に見える可視光があります。波と波の間隔が短いのが「紫外線」、この波長が長くなると紫色~赤色の「可視光」、そしてさらに長くなると「赤外線」と呼ばれます(図1)。波長が紫外線より短いX線はレントゲン診断で使用され、ガンマ線は癌治療のひとつとしても利用されています。波長が短くなるほどエネルギーが高くなるため殺菌などに使われています。
紫外線で分子を操る身近なものとしてUV硬化剤が知られていて、ジェルネイルやアクセサリー作りに利用されています。これは紫外線によってUV硬化剤の内部で重合反応が進行して固める技術です。またスマホやテレビの内部で様々な電子制御を担っている半導体が有ります。その回路パターンを作製する際にシリコン基板の表面にレジスト材を塗り、回路パターンを描いたマスクを重ねて光を照射します。光が当たったレジスト材の分子構造が変化して、固まったり溶解性が変化することで回路パターンの原型を作ります。この様に光で分子を操る技術は最先端半導体製造など私たちの生活に必要不可欠な技術です。
この実験では有機溶媒を使用するので換気に注意して、保護メガネ、保護手袋を着用する。
トルエン100mLに対して1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラン20~30mgを溶かし、その液体をサンプル瓶に入れる。溶かす量によって色の濃さや無色に戻るまでの時間が異なります。紫外線ライト(365nm)を当てると青色に変化します。紫外線の照射を止めて、しばらく放置すると青色が徐々に消えて、最初の無職液体に戻ります(図2)。演示実験用には1~2Lのペットボトルを利用すると良い。
1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピラン100mgをトルエン30mLに溶かす。この溶液をステンレスパッドに入れ、その溶液にコピー用紙あるいはろ紙を浸す。溶液から紙を取り出し、乾燥させる。この時にドライヤーを使うと引火する危険性があるので自然乾燥が望ましい。約30分後にシートをラミネートする。直後はピンク色に着色しているが、徐々に色が消える(図3)。
ラミネートしたシートを日光あるいは紫外線ランプで光を当てると色が変わる。室温で放置すると徐々に色が消え、元に戻る。透明フィルムにマジックやインクジェットプリンター等で絵を書いて、そのフィルムをシートに重ねて光を当てると絵が転写される(図4)。
1,2-ビス(2,4-ジメチル-5-フェニル-3-チエニル)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン10 mgをアセトンあるいは酢酸エチル2 mLに溶かす。この液体にシリカゲル1gを入れて良く混ぜる。そのまま有機溶媒を除去する。合成用のエバポレータ等があれば粉末をナスフラスコに入れて、減圧しながら有機溶媒を除去する。残ったシリカゲルをラミネートの中側にできるだけ均一になるように広げる。その際、シリカゲルを広げたい大きさ・形の紙を置いても良い。挟んだシリカゲルをこぼさないようにラミネートする。
シリカゲルが入ったラミネートの上に絵を書いた透明フィルムを置いて紫外線や日光を当てる。透明部分だけが青紫色に着色する。カメラ用ストロボで光を当てると、一瞬で色が消える(図5)。
光応答性材料とは光によって色や溶解性、硬さなどの物理的な変化を生じる材料の総称であり、いずれも光によって分子構造が変化することに起因する。ジェルネイルやアクセサリー作りに使われるUV硬化剤の多くはアクリル系原料を使い、紫外線の照射によって生じた活性種(ラジカル)がアクリル系原料と連鎖的に反応して固まる反応(ラジカル重合)が始まり樹脂に変化して固まります。
一方、光応答性材料のうち、光や熱などの外部刺激によって可逆的に変化する現象はクロミズム(chromism)と呼ばれ、特に光によって引き起こされるクロミズムはフォトクロミズム(photochromism)、そのような分子をフォトクロミック分子という。
これまでに数多くのフォトクロミック分子が開発され、その代表的な分子を以下に示す(図6)。図6では異性体 (A)から異性体 (B)への異性化反応し示している。光によって異性体 (A)から異性体 (B)に変化し、異性体 (B)から異性体 (A)の逆反応が室温程度の熱エネルギーによって進行するフォトクロミック分子をT型フォトクロミック分子という。また室温程度の熱エネルギーでは異性体 (B)から異性体 (A)に戻らず、可視光を照射することで戻るタイプのフォトクロミック分子をP型フォトクロミック分子という。P型フォトクロミック分子は書き換えが可能なDVDやCDの色素として利用されています。
1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランは以下に示したような構造と異性化が進行するT型フォトクロミック分子である(図7)。そのため紫外線あるいは太陽光に含まれる紫外線により無色のスピロ型から青色のメロシアニン型に変化する。室温で放置するとメロシアニン型からスピロ型に異性化することで無色に戻る。
実験1と同じ1,3,3-トリメチルインドリノ-6'-ニトロベンゾピリロスピランを用いているが、溶液状態と乾燥した固体状体では光異性化後の色に差がある。異性体の構造は同じだが、分子の周辺の環境が色合いにも影響する。
1,2-ビス(2,4-ジメチル-5-フェニル-3-チエニル)-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテンはP型フォトクロミック分子として機能する(図8)。シリカゲルに担持させることでフォトクロミック分子がシリカゲルの細孔に取り込まれ、その中で光異性化反応が進行している。
私たちの目は高感度の光センサーであり、光を感じる物質は網膜内に存在する。網膜内の光受容器細胞には光の明暗を感じる「色素」であるロドプシンが存在する(図9)。ロドプシンはオプシンと呼ばれる蛋白質と光を受けて構造が変化(異性化)するレチナールから構成されている。生物が光を感じるのはシス型レチナールが光によってトランス型レチナールに異性化するとオプシン蛋白質の立体構造が変化し、これが信号として視神経に伝えられる。トランス型レチナールは酵素により再びシス型レチナールに戻り、次の光刺激を繰り返す。オプシン蛋白質の種類により青、緑、赤の各色の吸収が異なり、色を認識できる。レチナールの様な炭素-炭素二重結合がつながったポリエン構造は光によって構造異性化する。
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