2022年10月7日
中国地区
広島大学工学部第二類
電力・エネルギー工学
助教 佐々木 豊
近年、平成30年7月の西日本豪雨災害や同年9月の北海道胆振東部地震に伴う大停電(ブラックアウト)、令和元年の房総半島台風による長時間停電などの経験から、レジリエントなエネルギーシステムの構築が求められています。同時に、カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて再生可能エネルギー(再エネ)の導入などさらに進める具体策の検討も必要です。そこで、エネルギー供給の強靭化とCNの両方を実現するための具体策として、太陽光発電システム(PV)や蓄電池システム(BESS)からなるスマートグリッド・マイクログリッドに関する実証試験が世界各国で行われています。広島大学工学部でも平成24年に行った工学部実験研究棟の耐震工事に合わせて、図1に示す太陽光発電システム、エネルギー使用量モニタリングシステム、蓄電池システムを教育研究設備として導入し、創エネルギー(創エネ)・省エネルギー(省エネ)・蓄電エネルギー(蓄エネ)を目指した、次世代スマートビルの構築を進めております。ここでは、工学部教育研究実験棟で取り組んでいる教育研究事例について紹介いたします。
図1のビルには広島大学工学部第二類の電気系研究室が入っており、災害停電時においてもサーバー機器など重要な設備の電力需要を賄えるように①創エネ・③蓄エネ設備が導入されています。平常時には、屋上に設置しているPVによりビル内に電力供給するとともに、エネルギー監視装置により②省エネの達成度をリアルタイムにモニタリングしています。これらのモニタリングしたデータは教育研究に活用しており、機械学習を応用した電力需要・PV発電量の前日・リアルタイム予測手法の開発や、災害時・電力需給ひっ迫時におけるデマンドレスポンス(DR)と呼ばれる省エネに資する研究課題など広く利活用しています。また、ビル地下には、図1(右)および図2(上)に示す蓄エネ設備を含めた教育実験設備を備え、環境・エネルギー教育の一環として、同期発電機や半導体電力変換器の実機を用いた電気系学生実習も実施しており、実機の挙動を確認するとともにシミュレーションによる比較評価も行っております。シミュレーションでは見られない挙動やノイズを実機で直に観測することができます。図2(左下)は、スマートビル全体を運用制御するソフトウェアの概要を示しており、前々日のエネルギー需給計画から当日のリアルタイム運用までを司る開発アルゴリズムを、実機に実装することでビル全体のエネルギーマネージメント最適化を実現することが可能となっています。現在は、時々刻々と変化する電力需要に対応しながら、平常時および災害時における電力安定供給を達成するために、エネルギー消費量・再エネ発電量の予測高度化や、図2(右下)に示す同期発電機の挙動を模擬する単相同期化力インバータに関する研究開発を行っております(参考文献1、2)。
ここでは広島大学工学部第二類で構築している次世代スマートビルの概要と関連する教育研究事例について紹介しました。今後、これまでに蓄積したエネルギー消費量などのモニタリングデータや災害時を想定した実機実験データを活用して、さまざまな分野への応用展開を図るとともに、教育研究活動に資する次世代スマートビルの構築を加速したいと考えています。
参考文献
掲載大学 学部 |
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