光の干渉 を知っていますか?身の回りでは、シャボン玉の膜の色が虹色に変化したり、水の上の油の膜に色がついて見えたりする現象です。どちらも、液体に色がついているわけではないのに、いろいろな色が観察できます。この現象を利用することで、ごく狭い隙間を測ることができます。ここでは光の干渉で隙間を測る方法について実験します。
スライドガラスを2枚用意し、表面をきれいにします。このとき、ごく小さなゴミや汚れもないよう注意してきれいにしてください。
2枚を重ねてみますと薄い縞模様が見えます。
合わさる面にほこりなどがある場合は縞が見えませんので、見えない場合はもう一度きれいかどうか確認してください。
綿棒などでスライドガラスに軽く力を加えると縞が変化します。
このように光の干渉による縞が観察できますが、これは、図のように2か所で反射した光が合わさったときに、反射した位置の違いにより光が進んだ距離が異なりその距離の違いによって強め合ったり、弱め合ったりする性質があるためです。これを表した図が次の図です。
ガラスは透明といいますが、その表面では10%程度が反射します。光が上の方から入っていき、上のスライドガラスの下表面で反射した光と、下のスライドグラスの上表面で反射した光の2つの光により干渉が生じています。つまり、隙間なく合わせたつもりでもごく小さな隙間があることがわかります。また、観察した干渉縞が一様でないことは、スライドガラス表面がごくわずかですが平らではないということがわかります。
ではどれだけ隙間の大きさが異なるかはわかるでしょうか。光の進む距離の差は隙間を往復することになりますので隙間の2倍です。干渉は光が波の性質を持つために生じています。波は波の山同志が合わさると強めあい、山と谷が合わさると弱め合います。干渉縞の強めあっているところと隣の強め合っているところでは、光の波の1つ分の光の進んだ距離が違うということです。もし光の波長が550 nm とすると隙間の差はその1/2の275 nmとなります。
『もし光の波長が550 nm とすると隙間の差はその1/2の275 nmとなります。
(550 nm : 緑色の波長、よく代表波長として使われる nm : ナノメートル、1m の10億分の1)』
スライドガラスの間に少し大きめの隙間を作ってみましょう。一方の端にアルミホイル(厚さ12 µm)を挟んだ場合の写真を示します。
スライドグラス左端の方向の縞が平行に多数見えます。蛍光灯の反射光でみるとよくわかります。アルミホイルは薄くて髪の毛の直径の数分の1の厚さですが、光の干渉を使った場合には大きな厚さであるといえます。綿棒で力を加えると干渉縞の状態が変わります。弱い力ですが、わずかにスライドガラスが変形し、隙間の分布が変化しているのです。干渉縞は、地図の等高線と同じように捉えることができます。左端側では力を加えると縞の間隔が長くなる、つまり隙間が並行に近くなることがわかります。逆に右側のアルミホイル側では、干渉縞は密であり、隙間の傾斜が急であることがわかります。
さて、光の干渉で隙間が測れることがわかりましたが、薄い縞では測定しにくいですね。干渉縞をはっきりさせる方法はないでしょうか。反射する光を強くするとよいでしょうか。金属などを磨いて表面の凹凸をごく小さくした鏡面状態にすると反射が強くなります。重ねる2面の組み合わせを変えて試した例を示します。
どうでしょうか? 反射率が高い鏡面加工した鋼表面を使っただけでは干渉縞ははっきりとしませんが、鋼の鏡面加工面とガラスより反射率を高くしたハーフミラーガラス円板の組み合わせでは、最もはっきりとした干渉縞が見えます。
これは、2か所から反射した光の強度が観察位置で同じになるときに干渉が最も強くなるためです。
さて、磨いた鋼表面を使う代わりに、反射率が高い鏡を使うと干渉縞はどうなるでしょうか。
鏡ではよく反射しているはずですが干渉像は全く見えません。実は光の干渉の強さは距離が長くなると弱くなる性質があります。鏡の光を反射している面は鏡のガラスの下面にありますので鏡の上面からは 数 mm下の位置にあります。そのためこの組み合わせでは干渉像が見えません。先に示したスライドグラスの間にアルミホイルを挟んだ場合に、アルミホイルに近い側では干渉縞がはっきりしていないのも同じ現象です。光源としてレーザー光など波長などがよく揃ったものを使うと距離が大きくなっても干渉像を得ることができます。
次は、鋼球(表面を極めて滑らかに磨いた鋼製の球、直径25.4mm)とハーフミラーガラス円板を図のように接触させて干渉像を観察してみます。このとき、干渉像が見える範囲は狭いので顕微鏡で観察します。また、これまでの実験は室内の光で観察しましたが、ここでは 青、緑、赤 の光の強度を別々にコントロールできるLED光源を使います。
鋼球とハーフミラーガラス円板
干渉縞がはっきり現れ、また、球の形状なので中心から外側に行くほど隙間が広くなる状態が観察できます。同じ状態で使う光源の波長が違うだけですが、青、緑、赤となるに従って干渉像の円が大きくなっていると思いませんか?緑と赤の干渉像を半分ずつにして合わせたものを示します。
干渉像にずれがあり、外側に行くに従ってずれが大きいのがわかります。同じ状態での干渉像ですから、隙間は同じはずです。なぜずれていくのでしょう? これは、光の波長の違いによるものです。光の波長の整数倍だけ2つの光が進んだ距離が違うと強め合うので、同じ隙間であっても観察している光の波長が異なると明暗の位置が異なり、隙間が大きくなるほど明暗の位置のずれが大きくなります。
干渉像がはっきり見える鋼球とハーフミラーガラス円板の組み合わせを使い、緑の光で、加える荷重を変化させて隙間の状態を観察します。
荷重を大きくすると干渉像の中央の円が大きくなることがわかります。つまり、硬い鋼球やガラスが変形しているのです。荷重をかけるのをやめると、元の形に戻ります。このような変形を弾性変形といいます。中央付近の明るい領域は、隙間がほぼゼロになっているところで、接触域と呼ばれます。荷重40Nのとき、接触域中央では大気圧の4000倍以上の圧力が発生します。この接触状態については、ハインリッヒ・ルドルフ・ヘルツ が理論的に解析しており、ヘルツの接触理論と呼ばれています。ヘルツと聞くと周波数の単位を思い浮かべますが、同じ人物の電磁気学に関する功績によって付けられた単位です。
周囲に潤滑油がある条件で転がり運動をさせた場合に隙間(油の膜)はどうなるでしょうか。
潤滑油があると、左から右に表面が動く時、接触域入り口側にだんだん隙間が小さくなる領域があり、ここで圧力が発生します。圧力が高くなるとより潤滑油は粘度(流れにくさ)が非常に大きくなる性質があり、隙間が小さいこともあって流動しにくくなります。そのため接触域内は、ほぼ同じ色=同じ隙間(油膜の厚さ)になります。1μm以下の小さな隙間ですが、これが形成されることにより、油で潤滑された機械の部品の接触面は直接金属同士の接触が起こらないので、摩擦が小さく長寿命で運転できます。ハンドスピナーや自転車でも使用されている転がり軸受は、このような仕組みで長期間なめらかに動くことができます。乗用車1台には150個以上が使われるなど、多くの用途で使われる転がり軸受の総数は全世界で80億個以上といわれ、エネルギー損失を小さくし長寿命で省資源にも役立つ持続可能な社会のために欠かせない機械要素であり、さらなる高性能化が必要とされています。
注:実際の隙間の値を求めるためには反射時の位相の変化や屈折率の考慮などが必要です。
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