形状記憶合金は文字通り形状を記憶する性質を持った金属材料です。身近にあるワイヤークリップを手で引き伸ばすと元の形状には戻りませんが、形状記憶合金は変形させた後でも一定の温度以上に加熱すると、あらかじめ記憶した形状に自動的に回復する性質を示します。形状回復時に発生する形状変化を利用すると熱から動作を取り出すことができます。動作時にモーターなどの駆動機構が不要であり、発生する力は硬い岩盤を砕くほど大きくすることも可能なので、省スペース・ハイパワーなアクチュエータ(人工筋肉)として人工衛星のソーラーパネルアクチュエータなどに応用されています。しかしながら皆さんの筋肉と同様に繰り返し動作を続けると疲労により、設計された動作ができなくなる問題があります。 疲労した形状記憶合金は動作をやめても疲労から回復することはないため、交換しなければ元の機能には回復しません。
我々の研究室では形状記憶合金が繰り返し動作しても疲労しにくい形状記憶合金を創成することを目指しています。筋トレ後に筋肉が傷つくのと同様に、形状記憶合金が動作する際に材料の内部に微細な傷が発生・蓄積することが動作を妨げる原因です。形状記憶合金の内部は板状の結晶がパズルのように配置された構造であり、形状記憶合金が動作する過程で結晶が形成と消失を繰り返します。結晶が出来始めた時は周りの結晶による制約が無いので結晶にとって居心地の良い配置を取りますが、最後の方では既に形成された結晶の影響を受けて結晶同士の無理な衝突が発生し、結晶同士の接合部で傷が発生します。衝突時に発生する損傷の大きさは結晶同士の接合部が整合性に依存するので、整合性の良い結晶の形状を計算機による予測と電子顕微鏡による観察結果を突き合わせることで探索し、傷の発生を抑制するためにはどういうポイントに着目して材料を作ればいいのかを徐々に明らかにして行っています。疲労に強い形状記憶合金が実現できれば、省スペースかつハイパワーという利点を存分に利用して、医療用ロボット用の高性能小型アクチュエータや回収が難しいとされる低温の排熱(温泉や工場排熱)を利用して形状記憶合金を動作させることで発電する熱エンジンといった新たな分野での応用が期待されます。
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