ここでは、島根大学建築構造学研究室(澤田研究室)で開発している強くて超しなやかな特殊部材の開発例を弾性と塑性といった基本概念とともに紹介しましょう。
たとえば、鋼材でできている鉄骨の柱は、非常に剛強そうに見えますが、建物の自重や、建物に作用する強風により、大きな力を受けると、その鉄骨の柱は、なんと、わずかに伸縮し、作用する力が除かれると、伸縮量も0に戻ります。しかし、一般的な鉄骨では、このようなばねのような性質(弾性と呼びます)は、元の長さの千分の一程度以下の非常に小さな変形の範囲でしか示さないです。それを超えると、ばねが伸び切ってしまい、元に戻らないような状態と同じ状態(塑性とよびます)となります。
万一の大地震や暴風などに対する建物の安全性を考えるとき、柱や筋かいなどの部材は、剛強さが求められることも多いですが、剛強な部材は往々にして、小さな変形で塑性化してしまいがちです。一方、「しなやかさ」が安全性に対して、有効な場合もあります。「しなやかさ」とは、ばねの性質で柔らかく弾性変形し、大変形においても塑性化しない性質です。このような「しなやさ」を実現するために二つのアプローチがあります。一つは、金属材料の素材そのものの特性を改善すること、二つ目は、形状を工夫する(ぐにゃぐにゃした形状にする)ことです。島根大学澤田研究室で開発研究している「大変形弾性部材」は、形状を工夫した超しなやかな特殊部材です。たとえば、鋼板を写真1のような特殊形状に切断加工することにより、元の長さの五十分の一程度の大変形においても、弾性の性質を維持することが可能となります。実験の様子は、動画1をご覧ください。
ここで説明したように、特殊部材を建物内に組み込めば、大地震時の大きな変形が特集部材の復元力で元に戻り、特に、大地震後の建物の傾斜が大きく抑えられることがコンピュータシミュレーションにより明らかになっています。本研究は、まだ始まったばかりで、今後、木造補強への応用をはじめ、種々の応用研究を行う予定です。
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