日本各地に伝統織物産業が立地しています。たとえば、京都の西陣織は絢爛豪華な着物で有名です。山梨県にも富士山の湧水を利用した織物産地があり、西陣織と同様に、糸を先染める精緻な模様を表現する織物を作る産地として知られています。最近では、海外の安価な衣料品が手に入るようになり、また、クールビズによってネクタイの需要が減ったり、感染症対策によって外出が控えられて外出着の需要が減ったりと、伝統織物産業には厳しい時代となっています。
私たちの研究室では織物産業の復興を目指して、コンピュータで織物に新しい価値を与えることを目指しています。これまで人手でデザインしてきた織物に対して、コンピュータでなければ作ることのできない世界初の織物を作る技術を開発することで、販売競争力の高い製品を作ってもらうことを目指しています。
織物は何千本もの経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を格子状に交差させることでできています。それぞれの格子点で、縦糸と横糸のどちらを上にするかを制御することによって、織物の模様を表現しています。コンピュータを制御するためにパンチカードが使われてきた時代がありますが、実はこのパンチカードは、経糸と緯糸の上下を制御するために開発されたのが先であり、織機はコンピュータの祖先であるということもできます。経糸と緯糸の上下も、白と黒の2つの値だけを持つ二値画像によって表現することができ、最新の画像処理の技術を使うことで織物をデザインすることができます。
研究室ではこれまでに、写真から織物を自動でデザインする画像処理方法や、写真に合わせて最適な色の糸を選ぶ方法、逆に、すでに織られた織物から二値画像を復元する方法、織物の色を別の色にした画像を合成する方法などを研究してきました。これらの方法は、山梨県内の織物デザイナの方々にお使いいただいて、新しい製品の開発に活かされています。
2022年頃からChatGPTやMidjourneyといった、誰にでも使える生成AIが数多く誕生し、芸術を含めた多くの仕事がなくなることが、一気に現実味を帯びてきました。この流れの中でも、私たちの研究室では、コンピュータと人間が協力して新しい織物をデザインすることを目指しています。コンピュータは過去の例を大量に読み込んで、同じようなことを誤りなく繰り返すことが得意です。人間は、その織物が使われる状況や、素材によって異なる糸の張り方といった物理的な要素を考える点において、まだまだコンピュータにはできないことができます。研究室で作ってきたデザインシステムでは、コンピュータによる完全自動処理ではなく、できた結果を人間が確認できるようにして、人間でさらに手を加えることができるような仕組みにしてあります。織物のデザインでは、コンピュータと人間が互いに足りないところを補い合うことで、コンピュータ・人間の一方だけでは作れない作品を作ることができます。
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