図1:産業用ロボットの例。機械部品の溶接に使われるロボットです。
ロボットと聞くと多くの方は、2足歩行をする、人間型のロボットを思い浮かべるのではないでしょうか。ものつくりの現場では、図1に示すような、産業用ロボットと呼ばれるロボットが広く使われています。図1は、自動車のボディのような機械部品を溶接するためのロボットです。
産業用ロボットには、運動の精度、つまり、ロボットをある位置に移動するよう指令したとき、正確にその位置に来ることが求められます。ロボットは、どの程度の精度で動くことができるのでしょうか?普通の感覚で見ると、ロボットはとても正確に、指令通りの動きをしているように見えます。でも、マイクロメートルオーダのレベルで見ると、ロボットには運動誤差があります。ものつくりの現場では、金属を削ったり、穴をあけたりするのは、工作機械と呼ばれる機械が通常は使われます。図2は、航空機の部品などの部品を切削加工するための、大型の工作機械です。ロボットは、搬送、溶接、ねじ締め、組み立てなどに主に使われます。しかし、金属の切削をすることはほとんどありません。それはなぜでしょうか?
図2:大型の工作機械の例。金属の切削加工に用いられる。
工作機械と比べたとき、ロボットの課題は幾つもあります。そのなかのひとつは、運動の精度が工作機械と比べると悪いことです。もちろん、図1のような産業用ロボットは、人間型ロボットなどと比べると、運動の精度は格段に良いです。それでも、図2のような工作機械と比べるとかなり劣るのが一般的です。産業用ロボットの動作は一般に、ティーチングと呼ばれる方法でプログラムされます。これは、動かしたい動作の通りロボットを人間が操作し、それをロボットに覚えさせる方法です。一方、工作機械は、最初からプログラムで動かします。ロボットをプログラムで動かしても、誤差が大きいため、人間が手動で調整することがどうしても必要なのです。
ロボットの運動の精度を上げることが難しい一番の理由は、ロボットの手先の位置を正確に3次元計測することが難しいことであると我々は考えています。運動を正確に制御するためには、まずは運動を正確に測定しなければなりません。広島大学工学部第一類の機械設計システム研究室では、工作機械やロボットの運動を3次元計測し、それを制御する方法を研究しています。図3は、レーザトラッカと呼ばれる新しい測定器を使って、ロボットの運動精度を3次元測定し、誤差を補正する方法を試験しているところです。3次元空間を自由に動く物体の、3次元位置をマイクロメートルオーダの精度で測定することは、簡単に聞こえるかもしれませんが、現在でもまだ確立されていない技術と言えます。
日本のメーカの産業用ロボットや工作機械は、世界中のものつくりの現場で使われています。このような新しい技術で、産業用ロボットや工作機械の用途をさらに広げることができると考えています。
図3:レーザトラッカと、レーザ干渉計と呼ばれる測定器を使って、
産業用ロボットの運動精度を測定しています。
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