2016年2月12日
東海地区
静岡大学 情報学部
昨今のエネルギー供給不足をはじめ、地球温暖化、化石燃料依存インフラからの脱却など、様々なテーマや問題を解決する中心的な技術として、スマートグリッドの取り組みが世界各国で活性化しています。特に、電力設備や需要家(消費者)側に設置された設備をICT(Information and Communication Technology)を利用して制御する技術「Green by ICT」が注目されてきました。
静岡大学でも2010年3月に情報基盤システムの更新に合わせ、ICTを用いて電力、ガス、水道といったエネルギーの使用量を「見える化」する環境負荷モニタリングシステムを導入しました。大学のような複合施設での見える化による省エネ効果は予測し難いところもありますが、全学規模で棟毎、フロア毎、エリア毎、系統毎の定量化を進めることで、設備効率やエネルギー使用量の長期傾向を把握することが可能となり、既存設備の能力を最大限に活かす適切な設備の組合せや運用方法の見直しに活用できるようになりました。
情報学部は、情報基盤センタや工学部等と連携して静岡大学環境負荷モニタリングシステムを中心に、「見える化」「知らせる化」「抑える化」によるスマートキャンパス化の取り組みを支えています(図1)。
大学は一般企業や家庭と異なり、多種多様な設備があるだけでなく、運用方法も部局や季節、設備によって多種多様です。そこで情報学部では、図2に示すような空調出力レベル調整システムを開発し、構造物間でのエネルギー協調制御アルゴリズムの検討と実証実験を進めてきました。特に空調出力レベルの調整には、有識者の方々と毎年夏と冬に制御アルゴリズムの改良や見直しを進め、施設利用者へ不快感を与えず、いかに部局棟毎の省エネ制御、キャンパス全体のデマンド制御を効果的に自動実行し、キャンパス規模の消費電力を削減するか検証してきました。
2011年7月の試験運用開始から制御アルゴリズムの改良を進め、2010年から2012年までの3年間でどのように浜松キャンパス全体の各月の消費電力(一次側)が削減されたかを図3に示します。
年2回あるピークの内、夏のピークである7月の消費電力の省エネ効果を分析してみると、2011年は3月に発生した東日本大震災の影響で省エネへの意識が高まったと言えるため、空調出力レベル調整システムの影響を評価し難いですが、2012年7月の消費電力は、2010年7月に対して約91%の消費電力に抑えられていることが分かります。つまり、環境負荷モニタリングシステムの運用による「見える化」効果、一次側電力負荷状況メール通知システムPandoraによる「知らせる化」効果、情報学部で研究開発した空調出力レベル調整システムによる「抑える化」効果、生活者の省エネ意識の向上などによって、約9%の消費電力削減が達成できたと言えます。正に応用学としての情報学の実例です。
大学は一般企業や家庭と異なって、多種多様な設備があるだけでなく、運用方法も部局や季節、設備によって多種多様です。電力線通信や省電力無線通信を併用した相互補完通信を利用することで、既存設備に後付けでマルチベンダ機器の制御環境を構築することができるようになります。また、昨今話題の機械学習と組み合わせて知的制御システムを実現すれば、構造物間でのエネルギー協調制御を状況に応じて柔軟に実現できそうです。環境負荷モニタリングシステム、電力負荷メール通知システム、空調出力レベル調整システムをベースに実証的研究開発を進めつつ、太陽光発電や風力発電、蓄電池といった他系統との接続によって統合ローカルEMS(Energy Management System)の実現など、地域社会や学内外の基礎研究成果と融合した先導的モデルキャンパスの実現が期待できます。
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