みなさんは、大学教授や学生は何のために研究をしていると思いますか?
工学部を目指す方は、未来を作るために研究をしていると思っている人が多いと思います。そんなの当たり前ですよね。でも、私が工学部に赴任した最初の数年はそのことに何度も気づかされ、驚きました。なぜなら、私は文学部の心理学科出身だからです。
科学と工学の違い、あるいは理学部と工学部の違いについてはなんとなく知っていました。科学・理学は自然の真理を明らかにすることを目的とし、工学は人の役に立つものを作ることを目指す。実際に、「豊橋技術科学大学」という名前の本学では多くが、人の役に立つ、社会を良くするための研究をしています。最近では理工学部という学部名も増えて、科学と工学の境界は曖昧です。本学の技術科学は、技術のための科学という意味ですし、社会の役に立つものを作るために世界初の真理を明らかにするというのも研究者が目指す研究スタイルの1つです。逆にみなさんは、役に立たない研究なんて意味があるのかと思うかもしれません。真実を明らかにすることは純粋に楽しいですし、知識の創造は人類の進歩の1つです。例えば心理学では、人の心とは何かを追求します。
最近、もう1つ学問領域の方向性の違いに気づきました。それは、工学部の多くでは未来を作るために研究をしているということです。人文社会科学の多くでは歴史を調べ、過去を明らかにし、過去や現在を批判するという方法をとります。ただしそれは過去を向いているだけではなく、過去と照らして現在や未来を良くするためにその知識を利用し、そういう批判的態度を身につけた人を育成します。心理学では、過去でなく、今現在の心理の解明を目指します。
しかし、心理学でも直接未来を向いた研究ができるのではないかと思っています。写真は、2人が1つのアバターをバーチャルリアリティ(VR)空間で操作している様子を示しています。私の研究室では、2人で1つの身体を利用する共有身体、1人で2つ以上の身体を利用する分身、自分の身体を透明にしてしまう不可視化、腕を長くする四肢伸張など、VRやロボットを使って未来社会で普及するであろう新しい身体を利用するときの心理や行動を調べています。つまり、未来人がどういう心を持っているかを明らかにすることを目指しています。それが分かれば、より良い未来社会を作れると思います。
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私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |