カメラ(ディジタルカメラ)は「光」を利用した身の回りの装置でもっとも身近なものであるといえ、現在はスマートフォンにもカメラ機能が搭載され、一人が一台以上のカメラを持つというのが当たり前の時代となりました。カメラはレンズを通した結像という物理現象を利用して写真を撮っていますが、このときにちょっとした工夫を加えるだけでおもしろい写真を撮ることができます。ここでは、カメラのなかで起こっている結像について理解するとともに、その特性を利用した撮影の応用について解説します。
まず、カメラの基本的な構造を確認しましょう。カメラの中は一見複雑に感じますが、図1のようにレンズと撮像素子(光の強さの分布を感じる素子)という二つの基本部材のみを考えれば結像を理解できます。結像というのは、撮影される被写体上の一点から発せられた光が撮像素子上の一点に投影されることをいいます。このことを一般的に「ピントが合う」といいます。点が点として投影されれば、あらゆるものは点の集合とみなすことができるので、映像を撮像素子によって取り込むことができます。レンズと被写体の間の距離をa、レンズと撮像素子の間の距離をb、レンズの焦点距離をfとすると、
が成り立つとき結像が成立します。逆にいえば、この条件を外れると結像は成立しないということです。
ところで、結像が成り立つとき被写体上の一点は撮像素子上の一点に投影されるといいましたが、実はこの説明には少し誤りを含んでいます。光は電磁波の一種で「波」の性質をもっています。被写体上の一点から発せられた光は広がりながらやってくるので、レンズという狭い穴をそれ以上に広がった光が通ってくることになります。このとき、回折という現象が生じて結像が成り立つにもかかわらず完全な一点に光は集まらず、わずかに広がります。この広がり方のことを点像分布関数といいます。ただし、撮像素子はいくらでも小さい点を見分けられるわけではなく、点と認識される広がりの許容値をもっています。つまり、この許容値を超えない程度の点像分布関数の広がりであれば、きちんと点として撮影されるわけです。次に、(1)式が成り立たない場合を考えてみましょう。レンズと撮像素子の間の距離はカメラによって決まっていることがほとんどですので、レンズと被写体の間の距離が図1のときより短い場合を考えてみます。この場合、被写体上の一点は撮像素子の後方に結像します。しかし、撮像素子の位置は変わらないままですから、一点に収束する前に撮像素子で検知されます。すなわち、点像分布関数はさらに広がり、もはや点と認識される許容値を超えてしまいます。被写体上の一点から発せられた光が点として検知されなくなったということは、それらの集まりである像自体も鮮明ではなくなります。これがいわゆる「ぼけ(ピンぼけ)」の正体です。ぼけというのは、点像分布関数が広がりすぎたことで生じる現象なのです。このことは被写体の分布を g(x,y)、点像分布関数を p(x,y)、カメラで撮影される像の分布を I(x,y)とすると次のように数式を用いて記述することができます。
* は畳み込み積分という演算をあらわし、簡単にいうと g(x,y)上のあらゆる点が p(x,y)の分布になるということです。図2のように、例えば g(x,y)が線のような物体である場合を考えてみると理解しやすいかもしれません。線は点が並んだものですので g(x,y)上のあらゆる点が p(x,y)の分布となったとき、 g(x,y)上を p(x,y)でなぞったような分布になることが容易に想像できるのではないでしょうか。
図2では点像分布関数 p(x,y) が円形であるという前提でしたが、これはレンズ(とそこを通って入ってくる光の分布)が円形であることに由来しています。裏を返せば、円形でないレンズを通して写真を撮れば点像分布関数は円形ではなくなるということです。そこで簡単な実験をしてみましょう。用意するものは、カメラ(ただし、ピントの調節が容易にでき、レンズの口径がそれなりに大きいもの)と厚紙のみです。厚紙をカメラレンズの口径くらいに切り、その中心にカッターで適当な形・大きさの穴を空けましょう。これをカメラレンズの前に貼り付けて視野絞りとして、疑似的に円形でないレンズを再現します。図3は、例として中心に星形の穴を空けたものです。これで準備は完了です。
視野絞りをつけたカメラで普通に写真を撮っても、上で述べた通り点像分布関数が非常に小さく、撮像素子で点として認識される場合は通常とあまり変わりません。効果が出るのは点像分布関数が広がった場合、つまりぼけた場合です。形を変えたい被写体には、ピントを調節してわざと結像しないようにしてください。あと、効果を感じやすいのはできるだけ面積の小さい被写体(面積が大きくなると畳み込み積分の影響から視野絞りの形の効果がわかりにくい)で、点状の物体がおすすめです。図4は、イルミネーションなどに用いられるLEDライトが連なったものを星形の視野絞りを通して撮影したものです。各ライトは点光源とみなせるもので、ここにピントを合わせると単に点状に光っているものしか撮影されませんが、わざとぼかして撮ることで視野絞りの形状になっているのが確認できます。この例では、ぼけた被写体のみが写っていますが、ピントの合うところに他の被写体があれば、そちらは鮮明に写ります。ピントの合った被写体と、視野絞りの形にぼかした点光源を同時に視野に収めた写真を撮るのは難しい(それぞれの明るさに差がありすぎると、どちらかが明るくなりすぎたり暗くなりすぎたりします)ですが、コツをつかめばそのようなおもしろい写真を撮ることができると思います。ぜひ挑戦してみてください。
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