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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

紅い炎のキャンドルを作ってみよう

2019年4月19日
富山大学 工学部

はじめに

 夜空に上がる花火は、一瞬のうちに鮮やかな赤や黄色、緑の光線を放って消えてゆきます。この鮮やかな光線は、花火の火薬に練りこまれた様々な元素が、火薬の燃焼に伴う熱により励起し、基底状態に戻る際に光を発する原子発光とよばれる現象によるものです。また、白金線を金属塩溶液に浸し、バーナーの炎の中に入れると、炎色反応により金属塩の種類に応じた特有な色の光を放ちます。これも原子発光現象の一つです。このような花火やバーナーを用いた炎色反応による原子発光現象を、長時間にわたって連続的に観測するためには少々工夫が必要です。

 キャンドル(ロウソク)は芯に灯した炎によって溶けたロウ(パラフィン)が、毛細管現象によって吸い上がり、炎に供給されることで長時間にわたって燃焼し続けます。しかしキャンドルの炎は、パラフィンの不完全燃焼に伴うススが明るく光るため、単純にロウに炎色反応を示す元素を加えても炎の色の変化は見えません。そこで、この「おもしろ科学実験室」では、ススのあまりでない“ロウ”を使って、紅い炎のキャンドルを作ってみることにします。

用意するもの

  • ガラス製キャンドルホルダー(容量100 mL程度の広口ガラス瓶で可)
  • キャンドル用ジェルワックス
  • キャンドル芯(28Dあるいは4×3+2)
  • キャンドル芯の留金具
  • プロピレングリコール
  • 12-ヒドロキシステアリン酸
  • 酢酸リチウム
  • アルミホイル

(プロピレングリコール、12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸リチウムは東京化成などの化学薬品販売会社から購入できます。また、キャンドル用ジェルワックス、芯、留金具はキャンドル専門店などで購入できます)

実験方法

 市販のジェルワックスを用いてキャンドルを作製した後、芯の周りのジェルワックスを一部取り除き、ここに燃やしてもススのあまり出ないプロピレングリコールに酢酸リチウムを溶かした溶液を流し込みます。プロピレングリコールは液体ですが、ジェル化剤であるヒドロキシステアリン酸を加えると室温でジェル状に固まるようになります。最後にキャンドル芯の周りをアルミホイルで覆い、プロピレングリコールジェルに直接火が着かないようにします。

  1. プロピレングリコールジェルの調製
     100 mLビーカーにプロピレングリコールを50 mL、酢酸リチウムを1.0 g入れ、よく撹拌して酢酸リチウムを溶解させます。ここに、5.0 gの12-ヒドロキシステアリン酸を加えた後、120℃に設定したホットプレート上にビーカーを置き、しばらく加熱すると透明な溶液となります。
  2. キャンドル芯のロウ引き
     キャンドル芯を8 cm程度(キャンドルホルダーの深さ+2 cm程度)の長さに切り、これを(1)で調整したプロピレングリコールジェル溶液に10分程度浸します。その後芯をピンセットで取り出し、クリップで芯の端をつまんで室温まで冷やし、芯についた余分なジェルを拭き取った後、留金具を取り付けます。
  3. キャンドルの作製
     ロウ引きしたキャンドル芯の留金具の部分を、キャンドルホルダーの底にテープで貼り付けます(図1(a))。割り箸を使って図1(b)のようにろうそく芯を固定し、加熱して液体状にしたジェルワックスを静かに注ぎます(図1(c))。市販のジェルワックスの融解温度は、製品によって異なりますので各自確認してください。注いだジェルワックスが完全に固まるまで冷やした後(図1(d))、カッターナイフを使って芯の周りのジェルワックスを直径2.5 cm、深さ2 cm程度切り取ります(図1(e))。切り取ったジェルワックスの穴に(1)で調製したプロピレングリコールジェルをあふれないように注ぎ(図1(f))、アルミホイルで作ったキャップを被せます(図1(g), (h))。アルミホイルキャップは、直径2 cm程度で中央に直径4 mmの芯を通す穴を開け、中央と円周部を少し折り曲げて溶けたプロピレングリコールジェルの上に浮かぶようにします。
    図1 紅い炎のキャンドルの作り方

実験結果

 作製したキャンドルに火をつけてみましょう。はじめは芯が燃えるため明るい光を放ちますが、しばらくすると炎が深紅色に変わっていきます。炎が小さい場合は、アルミホイルキャップの穴をピンセットで少し広げてみてください。また紅い炎はあまり明るくありませんので、部屋を暗くして観察してください。  作製したキャンドルの写真を図2に示します。左は酢酸リチウムを使った紅い炎のキャンドル、右はホウ酸を使った緑の炎のキャンドルです。プロピレングリコールジェルに加える元素の種類によって、特有な色の炎が観察できます。

図2図2 紅い炎のキャンドルと緑の炎のキャンドル

緑の炎のキャンドルは酢酸リチウムの代わりにホウ酸を使っています。

解説

 キャンドルの炎の温度は、外炎部で約1400℃、内炎部で約500℃といわれています。本実験で作製したプロピレングリコールジェル中のリチウムは酢酸塩として存在していますが、1400℃に達するキャンドルの炎の中で気化すると同時に周りから電子を受け取って、ほぼ100%原子の状態となります。これを「原子化」とよびます。

 基底状態(安定な状態)のリチウム原子は、3個の電子(K殻:1s軌道に2個、L殻:2s軌道に1個)を持っています(図3)。リチウム原子がキャンドルの炎の中(1400℃)に入ると、熱によりごくわずか(1%の千分の1以下の割合)の原子の電子が遷移(電子軌道が変わる)し(L殻:2s軌道→2p軌道)、励起状態(エネルギーの高い状態)となります。しかし、励起状態は不安定なので、極めて短時間で元の基底状態に戻ります。この際、原子が受け取った熱エネルギーを光(波長670.8 nm)として放出します。熱により原子が励起し、基底状態の戻る際に光を放出する、基底状態に戻った原子は再び熱励起し、光を放出して元の基底状態に戻り、これを繰り返す…これが「原子発光」現象です。原子発光では、放出される光のエネルギー(波長)は、遷移する原子内電子軌道のエネルギー差で決まりますので、原子の種類に特有な一定波長の光が放出されるのが特徴です。

図3図3 リチウム原子の原子発光の模式図

 それでは、普通のジェルキャンドルの炎と、原子発光によるキャンドルの炎を調べてみましょう。図4に普通のジェルキャンドルの炎のムービーとその発光スペクトルを示します。発光スペクトルの横軸は光の波長、縦軸は光の強度です。ジェルキャンドルの炎は明るく光っていますが、その発光スペクトルから、450 nmから930 nmまでの広い波長で光が出ていることがわかります。このように広い波長で切れ目なく光が放出されているスペクトルを「連続スペクトル」とよびます。このキャンドルの連続スペクトルは、主に炎の中で生じたパラフィンの燃え残りのススが、炎の温度に応じて光る「黒体放射」に由来しています。一方、紅い光を放つリチウム原子発光キャンドルの発光スペクトルは、普通のジェルキャンドルのものとは全く異なり、670.8 nmの波長の位置に鋭い発光線がみられます(図5)。特定の狭い波長の光だけ放出されているスペクトルを「線スペクトル」とよび、これが原子発光現象の特徴です。

 この原子発光現象は、発光波長が元素に特有であり、また発光強度が原子の濃度に比例しますので、環境中の微量元素を定量できるICP発光分析装置などの種々の機器分析装置の検出原理として広く用いられています。

102 Hz

図4 ジェルキャンドルの発光スペクトル

102 Hz

図5 リチウム原子発光キャンドルの発光スペクトル

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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