金属、プラスチックなどの固体は、温度が変化すると伸びたり縮んだりします。しかし、温度によるその変化量は少ないために、日常生活の中でそれを感じることはありません。例えば、鉄鋼材料の線膨張係数は約11×10-6(1/℃)で、1mの鉄鋼棒を10℃温度上昇させても0.11mmくらいしか伸びません。そこで、温度変化に対して変形しやすいプラスチック系の板と金属を接着した2層からなる板(試験片)を作製し、それに温度変化を与えて、その板を曲げてみましょう。曲げは、伸び縮みと違い、少しの変化でも肉眼で観察できます。 この実験では、塩ビとアルミを使用します。それぞれの線膨張係数は、60~80×10-6(1/℃)、23×10-6(1/℃)です。塩ビはアルミに比べて、3倍くらい伸びやすいことが分かります。(※線膨張係数は、1℃の温度上昇に対して単位長さあたりの伸び量を表します。)
塩ビ板を幅20㎜の帯状になるように、カッターと定規を使用して切断します。まず、塩ビ板に線を引くように、カッターで溝を入れます。3回くらいその作業をし、ある程度の深さの溝ができたら、溝の部分を折り、帯板を取り外します。(カッターで手を切らないように、十分に注意して下さい。)
帯状の板に、アルミテープを貼って、余分な部分を切り取ります。このとき、アルミテープにしわが入らないように注意して貼り付けてください。しわが多いとこの実験は失敗しますので、しわを少なくすることが実験を成功させるポイントです。
常温の水(この実験では約25℃)を容器に入れ、そして試験片(作成した板)をこの容器に入れます。試験片には、見えやすくするために側面に緑色の蛍光塗料を塗っています。塩ビ板にアルミテープ貼ったときの温度(この実験では約25℃)が基準温度となります。基準温度と試験片温度の差が温度変化になります。常温の水の温度と基準温度が共に約25℃なので、温度変化が無く、ほぼ直線になっています。(アルミテープは、右側に貼られています。)
次に、50℃の水を容器に入れ、試験片をこの容器に入れます。試験片が右側に曲がっていることが分かります。基準温度が約25℃なので、温度変化は25℃です。アルミテープは右側に貼られているので、温度変化が上昇するとアルミテープのある方向に曲がることが分かります。
次に、また、約25℃の水の中に試験片を入れます。温度変化が無くなりますので、試験片は、ほぼ直線に戻ります。
次に、約0℃の水(冷水に氷入り)に試験片を入れます。冷たい水が入っているので、容器は曇っていており、試験片が見えにくくなっています。試験片は、左側に曲がっていることが分かります。基準温度が約25℃なので、-25℃の温度変化あります。アルミテープは右側に貼られているので、温度変化が下降するとアルミテープの無い方向(塩ビ板側)に曲がることが分かります。
また、約25℃の水の中に試験片を入れます。温度変化が無くなりますので、試験片は、ほぼ直線となり、元の状態に戻ります。
【注意】
次に、約60℃の水の中に試験片を入れます。試験片が大きく曲がっていることが分かります。
【注意】
また、約25℃の水の中に試験片を入れます。25℃の水に試験片を入れても、元の状態に戻らなくなりました。これは、塩ビ板が元に戻らなくなったと考えられます。高い温度の水を使用すると元の状態に戻らなくなり、火傷をする危険もあるので、使用するお湯の温度は50℃くらいにしましょう。
この実験では、右の図のように、塩ビ板にアルミテープを貼った2層からなる板です。温度上昇によって、塩ビ板はアルミより3倍程度の伸びを生じます。この実験では小さな温度変化で大きな変形するように、このような材料の組み合わせを用いました。
図のように、温度変化が上昇すると塩ビ板の長さは、アルミより長くなります。
二つの板はもともと接着されていまので、接着面では2つの板とも同じ長さにならなければなりません。従って、温度変化の上昇により、接着面が同じ長さになるように曲がってしまいます。また、逆に、温度変化の下降により、塩ビ板の方がアルミより短くなります。そのため、温度変化の下降したときとは、逆の方向(塩ビ板の方向)に曲がります。
この実験では、塩ビ板(約0.6mm)とアルミテープを使用して、温度変化による板の曲げを行いました。しかし、使用する材料や板厚を変えた場合には、まったく曲がらない場合があります。これは、使用する板(材料)の性質や形状などを考慮して、適切な二つの板の組み合わせで作成した試験片を用いないと板は曲がりません。これらを理解するためには、大学の工学部などで学べる固体力学(材料力学)等の知識が必要となります。
また、このように温度変化による伸び量の違う板を貼り合わせた2層板は、温度変化により曲がります。この性質を利用して、サーモスタットなどの温度を検知して機器を作動させる装置の温度センサーとして使用されています。
さらに、二つの異なる性質の材料を張り合わせた積層板は、ジェットエンジンなどに耐熱材料として使用され、さらなる改良・開発が行われています。これは、耐熱性に優れているセラミックスを使用しています。しかし、このセラミックスには、割れやすいという欠点があります。身近なものでは、陶器の茶わんや土鍋です。これらは、熱で燃えたり・溶けたりしにくいのですが、地面に落としたり、硬いものに衝突しまうと割れることがあります。このような割れやすいものを機械の部品に使用すると、その部品が壊れ、さらには、機械が壊れてしまうことがあります。そこで、耐熱材料のセラミックスと延性材料(割れにくい材料)の金属を張り褪せて、耐熱性があり割れにくい材料を作ることができます。また、金属材料とプラスチックを用いることで、軽量で耐食性、耐水性などに優れた材料を作ることも出来ます。
しかし、異なる特性をもつ材料を張り合わせているので、その接合している部分で壊れやすいのが弱点となっています。そのため、材料の組み合わせやその形状などにより、どのくらい外力や熱に耐えることができるかを実験並び解析しなければなりません。例として、アルミ板とアクリル板を接合し、温度変化を25℃与えた場合について、有限要素法(FEM)を用いて解析します。
アクリル板及びアルミ板は、長さ10mm、厚さ0.5mm、幅1mmとし、二つの板を接合します。ここで、アクリル板と塩ビ版は、似たような特性を持っています。
この図は、ひずみが大きいときは赤色、ひずみが小さいときは青色で描かれています。ひずみは単位長さ当たりの伸び量です。この図より、上側(アルミ側)で伸びが少なく、下が側(アクリル側)で伸びが大きくなっています。これより、図に示す通り、上に曲がります。これは、線膨張係数がアクリル60~80×10-6(1/℃)、アルミ23×10-6(1/℃)ですので、アクリルの方が2~3倍程度伸びやすい。そのため、アクリルの方が多く伸びたためです。
この図は、x方向応力が大きいときは赤色、応力が小さいときは青色で描かれています。応力は、物体内部に作用する単位面積当たりの力です。赤色で示された応力の大きな部分で、応力が大きいほど材料が壊れる可能性があります。(実際は、x方向応力以外の応力も調べます。)このようにして、材料内部の応力分布を解析し、この材料が使用する環境で壊れないように、使用する材料や形状を決定します。
(※x方向は、上の図では水平方向になります。)
下図のように、塩ビ板の2か所にアルミテープを貼ります。これをお湯(48℃)と冷水(0℃)に入れます。お湯に入れた場合は、温度変化がプラスなり、アルミテープを貼って方に曲がります。このため、"S"字のような感じで曲がります。
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