みなさんは、真空と聞いて何を思い浮かべますか?真空と言うと、私たちには、あまり関係ないもののように思われるかもしれませんが、実は私たちの身の回りで、役に立っていることがたくさんあります。
今回は、簡単に真空を作ることができる「注射器真空ポンプ」を作って、実際に真空を作ってみましょう。そしてその不思議な性質を見てみましょう。
ガラス製のシリンジは割れて危ないので絶対に使用しないでください。
ここでは、テルモシリンジ(50 ml)を使用しました。
注)外筒の内側にビニルテープを貼ろうとすると、潤滑剤が塗られているために、貼り付かずにすぐに剥がれてしまうことがあります。その場合は、乾いた布やティッシュペーパーで、外筒の内側をよく拭いて潤滑剤を取り除いてください。
まず、注射器真空ポンプをペットボトルにつなぎ、プランジャーを往復させてみましょう。ポンプがうまく動作していれば、ペットボトルの中に入っている空気が外に排気され、少しずつしぼんでいきます。そして最後は完全につぶれてしまいます。
つぎに、注射器真空ポンプをガラスびんにつなぎます。ガラスびんには小さな風船に少しだけ空気を入れ、口をしばって入れておきます。ポンプのプランジャーを動かしてガラスびんの中の空気を排気すると、風船が少しずつ膨らんできます。
ガラスびん内部を真空にすると、誤ってガラスびんが割れたとき、ガラスの破片が飛び散る危険があります。ガラスびんを真空にするときは、念のためガラスびんを食品保存用透明バッグなどに入れるか、食品用ラップで包むことをおすすめします。
真空にする容器の中に、生き物を入れてはいけません。呼吸ができなくなって死んでしまいます。
注射器真空ポンプでどのくらいの圧力の真空が作れるのでしょうか。圧力計をつないで調べてみました。
地上の圧力である1気圧の状態であれば、この圧力計の針は「0 MPa」の位置を指します。注射器真空ポンプを動かしてみたところ、針は「-0.08 MPa」を示しました。これは、このポンプで作れる真空がおよそ0.2気圧、つまり地上の圧力の5分の1程度であることを示しています。
今回作った注射器真空ポンプで真空が作れる理由は、以下の通りです。
つまり、シリンジの外筒側面に貼られているビニルテープと、シリンジ内部の筒先の筒先をふさぐように貼られたシリコンゴムシートは、それぞれ一方向にしか開かない弁の役割を果たしており、シリンジ内部の圧力が低いときは筒先のシリコンゴムシートのみが開き、圧力が高いときは外筒の側面に貼られたビニルテープのみが開くことで、空気が常に一方向にしか流れない仕組みになっています。そのため、プランジャーを往復させることで、シリンジの筒先につながれた容器内の空気を吸い出し、外に排出することができるのです。
真空とは何か、と聞かれたとき、多くの人は「空気のない状態」と答えると思います。では、真空は本当に空気のない状態でしょうか?
日本工業規格(JIS)では、真空とは「大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態」であるとされています。つまり、ある容器の内部の圧力が、その外部の圧力より低くなっていれば、その容器の中は真空であると言えます。
これによれば、みなさんの家にある電気掃除機は、真空を作り出す装置です。電気掃除機は、モータでファンを動かしてその内部の空気を外に排出し、圧力が低い状態を作り出すことで、ゴミを空気ごと吸い込むしくみになっています。電気掃除機は英語で"Vacuum Cleaner"(真空掃除機)と言います。
真空ポンプで容器内の空気を外に排出していくと、容器の内部と外部で圧力差が発生します。これにより、容器の壁面には、外部から内部へと押す力が働きます。容器の強度が十分でないと、容器はこの力に耐えられなくなり、押しつぶされます。
ところで、空気とは何でしょうか?空気はおもに窒素と酸素からなる混合気体で、窒素と酸素の比は約8:2です。気体は、大きさ1 nm(ナノメートル)にも満たない極めて小さな「分子」の集まりです(1 nmは10億分の1 m)。大気圧[1気圧=1013 hPa(ヘクトパスカル)=1.013×105 Pa:これを標準気圧と言います]で気温20℃の状態では、1立方cmの箱の中に、窒素と酸素の分子が合わせて、約2.5×1019個(=25億の100億倍)も詰まっています。真空をつくることは、このすさまじい数の気体分子を減らしていくと言うことです。
今回製作した注射器真空ポンプで作ることができる真空の圧力は、0.2気圧程度、つまり大気圧の5分の1程度の圧力であることが分かりました。この場合、1立方センチメートルあたりに詰まっている気体分子の数は5.0×1018個程度であり、依然として多くの気体分子があることが分かります。では、この1立方センチメートルあたりに存在する気体分子の数が0(ゼロ)の状態(これを絶対真空と言います)をつくることは可能でしょうか?答は「いいえ」です。現在の技術で作ることができる真空は、1000兆分の1気圧程度(圧力で言うと10-10 Pa程度)が限度です。極めて低い圧力に思えますが、この状態でも、1立方cmあたりに10000個程度もの気体分子が存在しており、決して気体分子の数は0ではありません。
私たちの身の回りにある色々なものは、実は真空を作る技術と密接に関わっています。たとえば、魔法瓶は真空が熱を伝えにくい性質を利用しています。長期保存が可能なフリーズドライ食品は、水分を含んだ食品を凍結し、これを真空容器に入れることで水分が除去される(昇華する)ことを利用して作られます。スーパーの野菜売り場へ行くと、レタスなど野菜が入った段ボール箱に「真空予冷」と書かれているのを目にするかもしれません。これは、野菜を真空中に入れるとその水分が蒸発し、蒸発熱が奪われて温度が下がることを利用しています。
コンピュータやスマートフォンなどの電子機器に使われる集積回路や液晶ディスプレイの製作にも、真空技術が使われています。
このほかにも、真空はいろいろなところに使われています。真空がどんなことに利用されているか、ぜひ調べてみて下さい。
本工作で使用したシリンジ、ナイロンチューブ、シリコンゴムシートおよびシリコンゴムチューブは、インターネット通販などで購入できます。シリコンゴムシートはビニルテープで、シリコンゴムチューブはゴムホースなどで代用することも可能です。アルミ網戸用 網押さえゴムはホームセンターなどで購入できます。
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