水は通常100℃で沸騰します。その一方、水は富士山の頂上では88℃で沸騰するためにカップラーメンが上手に作れず、圧力鍋では約120℃で沸騰するので様々な料理を素早く作ることができるなど、様々な性質を示します。このような現象には、水の蒸気圧が深く関係しています。温度が上昇すると蒸気圧も上昇し、蒸気圧>大気圧となると沸騰します。水の場合、大気圧(1気圧=1.0×105Pa)での蒸気圧が100℃であるため、100℃で沸騰してお湯はそれ以上の温度になりません。これに対し、富士山頂での大気圧は約0.6気圧なので100℃より低温で沸騰し、圧力鍋は2気圧で蒸気が噴き出す仕組みになっているので120℃のお湯になってようやく沸騰します。
この実験では、普段は意識することのない水の蒸気圧を実際に測定し、蒸気圧が温度に対してどのように変化するかを確かめます。また、水に限らず、物質にはそれぞれ固有の蒸気圧があります。そこで、アルコールの蒸気圧も測定することで、物質による蒸気圧の違いも理解します。私たちが目にする沸騰などの現象について考えてみましょう。
100mLビーカーに水を約10mL入れます。
注射器に空気を15mL吸います。
ピストンを抑えたまま注射器を100mLビーカーに入れ、水 約1mLを吸います。
注射器を素早く引き抜き、横向きにします。
注射器の先に注射器キャップをつけて閉じ、キャップを下にします。
500mLビーカーに水道水約100mL、氷を300mLになる程度まで入れ、温度計を入れます。
1.で準備した注射器を冷水中に入れます。
温度が安定したら、基準温度T0[K]と注射器内の気体の基準体積V0[mL]を記録します。このとき、注射器の値からすでに入っている水1mL分を除いた体積をV0[mL]とします。
注射器を氷水から出して、室温になるまで十分放置します。
500mLビーカーに約100℃のお湯を約400mL入れ、そこに温度計、撹拌棒を入れます。
2.で使った注射器を入れます。
区切りの良い適当な温度にて、注射器内の体積を記録します。
以下、お湯が冷えるのに沿って、例えば80℃から40℃まで5 ℃刻みにて、温度Tn[K]と体積Vn[mL]を記録します。このとき、棒で液を時々撹拌します。
ワークシート1を完成させて、各温度における水の蒸気圧を求めます。
ワークシート1は、ボイル・シャルルの法則とドルトンの分圧の法則から、水の蒸気圧を求めるものです。
ボイル・シャルルの法則は、「一定量の気体の体積は、圧力に反比例し、絶対温度に比例する。」です。温度T’[℃]の時、絶対温度T[K]はT[K]=T’+273です。ある気体が、状態1(圧力P1[Pa], 体積V1[mL],温度T1[K])から、状態2(圧力P2[Pa], 体積V2[mL],温度T2[K]になったとき、
が成り立つというものがボイル・シャルルの法則です。
ドルトンの分圧の法則は、「全圧は各成分気体の分圧の和である。」です。2種類の気体A,Bが混ざっている場合、全圧P=Aの圧力PA+Bの圧力PBが成り立つというものです。ここでは、ピストンが受けている大気圧=空気の分圧+水の分圧(蒸気圧)の原理を用いています。
実験では、低温の基準温度(T0)における水の蒸気圧=0と仮定しています。このとき、T0における空気(厳密には窒素+酸素)の圧力が大気圧P0で、体積は測定した体積V0です。次に、測定温度T1での体積V1を求めると、
を変形した
より、大気圧P0のうちの空気の分圧P1が計算できます。
この時の水の分圧が水の蒸気圧で、P0-P1から求めます。
なお、圧力計がない場合、大気圧P0=1.0×105Paとします。
ワークシート2を完成させて、各温度における水の蒸気圧を求めます。
ワークシート2に、温度-蒸気圧の関係を書いてグラフにします。蒸気圧が温度によってどのように変化するかを確かめます。
高校の教科書には、水やエタノールの蒸気圧曲線が記載されています。参考として、最後に水とエタノールについての温度と蒸気圧の関係の図を示します。これは、温度・圧力を厳密に調整した条件で、より高度な測定法により測定したデータに基づいて作成されたものです。可能であれば、最後の図と実験で得られた図とで差が出た理由について考察してみましょう。
水のかわりに、エタノール(無水エタノール)を用いて同様の実験・解析をします。ここで、エタノールの融点は低いので、冷水を作る際に食塩を適当量加えて多少低温とした方が良いです。また、注射器を入れるタイミングは、沸点以下とするため75 ℃を下回ってからとしてください。温度とエタノールの蒸気圧の関係について、温度と水の蒸気圧の関係と比較して、同じ圧力(例:1.0×105Pa)ではどちらがより低温で沸騰するか考えましょう。
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