この実験の内容は、2005年(平成17年)に佐賀県神埼市の神埼市立小学校で実施した出前授業の為に、佐賀大学で開発した教材を基に再構成したものです。
光の三原色の発光ダイオード(LED)を使って様々な色を自在に作ることができる「3色発光ダイオードを使った紙コップ発光器」を作ります。
赤色、緑色、青色の光のことを、光の三原色と呼び、比率を変えて3つの光を混ぜることで、人間が目で感じることができる、ほぼすべての色を再現することができます。例えば、一般的な液晶テレビやパソコンなどの画面では、画素ごとに3色の光を自在の比率で混ぜて、きれいな画像を表示することができます。
この実験では、紙コップやストローなど、ホームセンターなどで購入することができる、値段の安い材料を使って、3色のLEDの光を混ぜるための発光器を作ります。
発光ダイオード(LED)は、低電力で特定の波長の光を出すことができる、非常に優れた発光素子であり、我々の生活を支える非常に重要な技術の一つとなっています。(2014年に赤崎勇先生、天野浩先生、中村修二先生が、青色LEDの研究でノーベル賞を取られたことは、記憶に新しいと思います。)
図1は、典型的なLEDの構造と写真です。直流電圧をかけることによって電流が流れ、先端の発光部から特定の波長の光を出すことができます。
現在、LEDは優れた特長を生かして、照明、信号機、各種表示器など、様々な用途に利用されています。LEDの色(発光波長)は、使用している半導体材料によって変わりますが、よく利用されている色は、光の三原色に当たる赤色、緑色、青色のものです。
図2は、赤色、緑色、青色のLEDと白熱電球の波長を比較したグラフです(横軸:波長[nm]、縦軸:LEDからの光の相対的な強度、マルチチャンネル分光器で計測)。LEDからの光は比較的狭い波長範囲に集中しています(赤色:580~730nm、緑色:530~630nm、青色:440~520nm)。それに対して白熱電球は様々な波長の光が混じったグラフになっています(350~900nm以上)。
原理的には、様々な光が混じると白色に近づいていくため、白熱電球の光は黄色っぽい白色の光として感じることができます。同じ理由で、3色のLEDの光を調節して混ぜると、白色を作ることが可能になります。また、3色の光の強度の比率を変えることで、様々な色の光を作り出すことが出来ます。
LEDの発光強度は、流す電流によって変化します。通常、ダイオードの順方向(アノードにプラス、カソードにマイナス)に電圧をかけて電流を流すと、ダイオードの両端の電圧の大きさはほぼ一定になり、電流は外部回路で決まる電流の大きさになります。例えば、図1のLED1個に普通の電池(例えば、単三電池2~3個程度)を直接つないで点灯させようとすると、LEDだけでは電流が制限されないのでLEDに大きな電流が流れてしまい、壊れてしまいます。そこで、LEDを安定に発光させるためには、LEDに流れる電流を一定にする定電流回路が必要になります。
電流の制限の仕方ですが、主に2つの方法があります。
今回は、ダイオードに直列に抵抗を入れることで、電流と発光強度を決めて点灯させます。
使う分量、寸法などは、手に入った材料に合わせて適当に変えます。
特に、炭素皮膜抵抗の抵抗値は、発光ダイオードの発光輝度(発光効率)によって変える必要があります。(固定抵抗の代わりに可変抵抗をつないで、輝度をチェックすると、調整がしやすくなります。)
発光ダイオードは高熱に弱いので、ハンダ付けするときには放熱クリップなどを使って放熱しながら、すばやく行うことをお勧めします。
リード線、ストローを必要な長さで切ります。リード線の両端は5~10mm程度、剥いておきます。
LEDのアノード側に抵抗を、カソード側にリード線をハンダ付けします。(図3)赤色、緑色、青色の3セット分を作ります。発光ダイオードのアノードとカソードの銅線の長さが違うことに注意しましょう。
図4に示す様に、ストローに②で作った3本の発光ダイオード回路を差し、セロテープで固定します。ハンダ付けしたリード線側をストローの中に、抵抗側をストローの外側にします。この時、各回路の外側の銅線部分が触れ合ってショートしないように気をつけます。セロテープは2ヶ所くらいで固定すると良いでしょう。
ストローから出ているリード線の端に、電池ホルダのマイナス側(黒線側)をハンダ付けします。必ず3本ともハンダ付けして下さい。はんだ付けをしたら、必ずセロハンテープを巻いて、絶縁をして下さい。
図5の様に、紙コップの底に一辺8~10mmくらいの十字型の切れ込みを入ます。切れ込みに④で作った発光ダイオードのパーツを2cm程度差し込みます。ここでは、特に固定しなくてもいいですが、切れ込みが大きくパーツが外れやすい場合にはセロテープなどで固定します。
図6のように、トレーシングペーパーを紙コップの中に納まる大きさに丸く切り、紙コップの中に入れます。形状はいろいろ工夫してみて下さい。枚数は2~3枚程度で良いですが、完成後の色の混ざり具合を見て調節して下さい。トレーシングペーパーがコップの中ほどに浮くような大きさにすると、光の色が比較的うまく混ざります。
紙コップの口に、もう1枚トレーシングペーパーを貼り付けてフタをして、完成です。
図7の様に、電池ホルダーに9V角型電池の極性を間違えない様に取り付け、抵抗の下側のリード線と電池ホルダーのプラス側端子(普通は赤色のリード線側の端子)を接触させると、発光します。トレーシングペーパーを通すことで、LEDの光を混ぜ、色を変えることが可能になります。発光はかなり暗いので、暗いところで実験した方が、分かりやすいでしょう。
接触させる端子を変えると、色が変わります。3色LEDを同時に点灯させると、白色に近い発光が見えると思います。図8に、LEDの発光の組み合わせと発光の様子を示します。
トランジスタを利用した簡単な定電流回路の概略図は下図のようなものです。トランジスタの電流増幅作用によって可変抵抗(最大値 R=VR)のスライド端子での電圧V1とLEDを流れる電流Ic(R2を流れる電流)との間に、
という関係が成り立ち、トランジスタのベース電極にかける電圧に比例して流れる電流が変化することになります。ここで、R1はLEDに流す最大電流を決めるために必要になります。可変抵抗のスライド端子での電圧V1は、R1と可変抵抗の分圧回路による電源電圧の分圧によって決まります。LEDに流れる最大電流は可変抵抗のスライド端子での抵抗値が最大(VR)になった時になり、
となります。この電流値は、LEDの種類や個数に係わりなく決まります。例えば、複数のLEDを直列に接続し、NPNトランジスタ1個を取り付けたLED駆動回路でも、電源電圧VがLEDの順方向電圧の合計よりも高ければ、すべてのLEDを同じ電流で点灯することが可能です。
ちなみに、今回実験で使ったLEDの流してよい電流はImax = 30mA、順方向電圧はそれぞれ、赤色:1.757V、緑色:2.073V、青色:3.078Vでした。この値は、LEDの品番によって異なりますので、実際の回路で調べられることをお薦めします。
掲載大学 学部 |
佐賀大学 理工学部 | 佐賀大学 理工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |