海に囲まれた日本にとって、漁業は重要な産業です。漁の方法は様々なものがありますが、海に大きな網を固定的に設置して魚が網に入るのを待つ定置網という漁法があります。近年、SDGsの目標の1つである「海の豊かさを守ろう」において、魚の過剰な漁獲を抑制して海洋資源を適正に管理しましょうという動きが世界的に行われています。定置網は網内に入った魚を逃がすこともできるため過剰な漁獲につながりにくく、資源管理がしやすい漁法として注目を集めています。しかし定置網は、どのような魚種と量が網に入っているかは、船で定置網に行って確認する必要があります。網から魚を取り出すにも労力が必要ですので、網にあまり魚が入っていない場合は船の燃料を消費して確認するだけに留まる場合もあります。
我々は、網の中の様子を映像で確認できるようにするためのカメラシステムの開発に取り組んでいます。カメラシステム実現に向けた課題としては、陸から1~2キロメートル離れた定置網と映像をやり取りできる通信速度が利用できること、30メートル程度の水深の水圧に耐えられるカメラであること、メンテナンスがしやすいことなどが挙げられます。我々の取り組みでは、LPWA(Low Power Wide Area)通信技術の中でも、2022年末に日本での利用が認められたWi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)という、長距離の無線通信を可能としつつ、他のLPWA技術と違い映像伝搬に耐えられる通信速度を利用できる通信方式を利用しています。またカメラは、水中ドローンで用いられるレベルの容器を使うことで水圧に耐えられるものを使って容器を作りました。容器の中に高解像度のカメラを封入して、定期的に撮影した画像をUSBケーブルを通じてWi-Fi HaLowの送信装置に送り、陸に設置したWi-Fi HaLowの受信装置に画像を送信するようにしています。
神奈川県の海上に設置された定置網内部をカメラシステムで撮影したところ、魚と、海中の網の状況を画像で確認することができました。通常のLPWAではセンサが検知した小容量データのみの伝送が可能ですが、Wi-Fi HaLowを用いることで、監視対象に赴かなくても画像で視覚的に状況を確認することが可能になります。このシステムを使って、網から逃がす必要のある魚が入っていないか、魚を定置網から取り出すコストに見合った漁獲量が見込めるかなどを陸にいながら判断して定置網を運用できるようになると考えられます。
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