2020年2月21日
信越・北陸地区
新潟大学 工学部
『持続可能な開発目標(SDGs)を支える機能材料を設計してみよう』そんな一言から始まる工学実験があります。新潟大学工学部の材料科学プログラムが開講している材料科学PBLという必修科目です。ここでは、このような未来志向型の演習を可能にしている材料科学プログラムの材料開発に関する研究と工学教育について紹介します。
エネルギー、食料、環境などの難題を克服し、2l世紀の文明を推進していくためには、既成概念にとらわれない新素材・新材料の開発が不可欠です。また、それらの材料開発に携わる人材として、自己啓発型の研究者や技術者が求められています。
材料科学プログラムは、「原子・分子レベルからその集合体にいたる材料を対象とし、機能発現機構の解明および機能発現物質の創製に貢献できる人材を育成する」ことを基本理念としています。持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた目標のことで、SDGsを支える機能性材料の設計・開発は、まさしく本プログラムの果たすべき課題のひとつといえます。
教員の研究テーマは、環境問題とSDGsの課題克服に関連した課題に重点が置かれており、太陽光発電、人工光合成、燃料電池、超電導、量子コンピュータ、バイオマス、バイオインフォマティクスなど未来志向型の研究テーマに取り組んでいます。例えばクリーンで安全な次世代エネルギー供給を目指した研究では、太陽電池などの光エレクトロニクスデバイスに使われる材料の作製・評価、人工光合成・水の可視光分解の作製・評価、水素センサ・燃料電池関連材料の作製・評価に取り組んでいます。電子の振る舞いを研究して情報革新につなげる研究として、超伝導体・磁性体の作製・評価ならびに発現機構の解明も研究グループを形成して行っています。超高感度核スピン・エレクトロニクス技術に基づく量子情報・機能性物質の量子物性および医学・医療への展開は異分野融合プロジェクトも実践しています。環境調和・改善という視点での研究も活発で、生理学的・構造生物学的研究と機能性食品への応用、生物材料の開発およびその生産に関する研究により、バイオマスの有効利用を探索しています。また、生物の仕組みに学ぶという観点で刺激応答性ソフトマテリアルの合成および新機能探索やセンシング材料の開発も行っています。機能性コーティング材料の創成・評価をはじめバイオ関連の研究は医工農の連携プロジェクトはじめとする異分野融合プロジェクトにも取り組んでいます。
図1 プログラムの基本理念
先にお話しした材料科学PBLでは、持続可能な社会を構築するために必要不可欠となる「必ずしも解がひとつでない課題」について、大学で学んだ複数の知識を駆使して、グループワークで解決していくことを実践しています。受講者は、太陽光発電、超電導、燃料電池、バイオマス、バイオインフォマティクスなどプログラムのカリキュラムで学んだ材料科学や材料工学に必要な学力と技術を基にしてSDGsに関する課題を自らで設定して、実験内容を深く理解し、協働して実験を遂行することで、問題解解決を行うことが求められます。具体的にはLabviewを活用した材料開発、評価系の設計、構築、機能性有機材料の合成と評価の各テーマを通じて、課題解決のためのプロセスを理解し、アイデアを立案して、実行するための方法論の修得を到達目標としています。PBLでは、「自ら課題を設定して、協働して問題解解決を行う」ことに意義があるので、自ら設定した課題を基軸に、グループワーキングを通じて、さまざまな角度から実地に会得していく過程から、多くのアイデアが発案されます。
このようにSDGsと関連した材料科学や材料工学に必要な基礎学力と基礎技術の習得および問題解決法の基礎学習を通じて、グローバル社会での社会問題を解決するための問題解決能力と自律的学習能力を身につけることができます。
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