界面活性剤は同一分子内に、水に馴染みにくい「疎水基」と水に馴染む「親水基」を有していることから、互いに混ざり難い水と油の仲を取り持つ役割があります。通常、疎水基には炭化水素鎖が使用され、親水基には負に帯電する「カルボキシル基」「スルホ基」、正に帯電する「アンモニウム基」「ピリジニウム基」、イオンには解離しない「糖」や「グリセリン」、「グリコール」などが使用されます。上述のようにどの界面活性剤にも「水と油の仲を取り持つ」働きがありますが、親水基の種類によってその特性や用途が大きくことなります。一般に界面活性剤といえば、「石けん・洗剤」を思い浮かべることが多いかと思いますが、洗浄剤として機能するのは親水基が負に帯電する、「陰イオン界面活性剤」です。一方、正に帯電する「陽イオン界面活性剤」は、柔軟剤、殺菌剤などの用途に使用されます。(図1)
代表的な陰イオン型のラウリル硫酸ナトリウム(SDS)と陽イオン型の塩化セチルピリジニウム(CPC)を水に溶かすと、どちらも無色透明な水溶液であり、匂いもありません。またこの水溶液を振り混ぜると、シャボン液のようにすごく泡立ちます。(図2)このようにどちらも「水と油の仲を取り持つ」界面活性剤なので、一見区別がつきません。今回はこれら2種類の界面活性剤を実験によって区別してみましょう。
0.6gの塩化セチルピリジニウムを100mLの水に溶かす。(A液)
0.6gのラウリル硫酸ナトリウムを100mLの水に溶かす。(B液)
1mgのクリスタルバイオレットを500mLの水に溶かす。(C液)
試験官を3本用意し、それぞれにA益2mL、B益2mL、水2mLを加える。
更に全ての試験管にそれぞれC液2mLを加える。
全ての水溶液(紫色)に1mol/Lの水酸化ナトリウム1mLを同時に加える。
色の変化を観察する。
クリスタルバイオレットを水に溶かすと鮮やかな紫色を呈しますが、アルカリ(水酸化物イオン)と反応することで無色に変化します。(図6)陽イオン型のCPCが入った試験管は、アルカリを添加した瞬間からすみやかに色が変化します。界面活性剤が入っていない試験管も、約20秒で無色になりますが、陰イオン型のSDSが入った試験管は色が全く変化しません。(図7)このように一見同じように見えた陰イオン型と陽イオン型の界面活性剤水溶液ですが、色素の色の変化に対して全く逆の影響を与えることがわかります。
図7 色の変化の様子
界面活性剤を水に溶かすと、水になじむ部分を外側に、水に馴染まない部分を内側にして集合し、ミセルと呼ばれる集合体をつくります。クリスタルバイオレットはどちらかというと水に溶け難い色素なので、ミセルが存在するときには、そのミセルの中に溶け込みます。陽イオン型のミセルの表面はプラスに、陰イオン型のミセルの表面はマイナスの状態になっていますので、ここにマイナスの電荷をもつ水酸化物イオンを添加すると、陽イオン型に溶け込んだ色素では、ミセル表面のプラスと水酸化物イオンが引きつけ合うため、より反応が進みます。逆に陰イオン型に溶け込んだ色素では、ミセルのマイナスが水酸化物イオンを寄せ付けないために、なかなか反応が進まない、というわけです。(図8)
陽イオン型であるCPC水溶液と陰イオン型のSDS水溶液は、どちらも無色透明で一見違いは分かりません。しかしながら両者を混合すると瞬時に白濁して乳白色を呈します。(図9)
図9 陰イオン型と陽イオン型の混合の様子
実験1でも述べたように、界面活性剤水溶液にはミセルとよばれる集合体が存在していますが、その集合体は非常に小さなサイズであるため、肉眼で見ることはできません。これはミセルを形成する界面活性剤が同種の符号のイオンであるため、互いに反発するために少ない分子の数で小さな球状の集合体を形成するためです。一方で両者を混合すると界面活性剤のプラスとマイナスが引き合うため、集合体は平面状に成長していき、ベシクルもしくはラメラ液晶と呼ばれる集合体に変化します。この集合体は光(可視光)を散乱するほどに大きくなるため、溶液は白く見えることになります。(図10)なおこの状態では、プラスとマイナスが打ち消し合うことから、陰イオン型としての機能も、陽イオン型としての機能も発揮することができません。よって、シャンプー(陰イオン型)の後のリンス(陽イオン型)や、洗濯洗剤(陰イオン型)の後の柔軟剤(陽イオン型)を効率良く使うためには、洗浄成分を良くすすいでから使う必要があるといえますね。
界面・コロイド化学の基礎 北原文雄 講談社サイエンティフィク
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