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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

 

熱の伝わりを感じてみよう

 
2014年11月11日
鹿児島大学工学部 環境化学プロセス工学科

熱はLED照明の大敵!

最近よく耳にする「LED照明」は、半導体デバイスの一種です。半導体は、温度が上昇すると動作効率が低下し、さらに、寿命が短くなってしまうという性質があります。特にLED照明の場合、投入した電力の約60 %以上は熱となってしまうため、大量の熱を取り除く必要があります。LEDから発生した熱は最終的には環境へと放出されますが、LED筐体に用いる素材や設計が不適切だと、LEDから生じた熱が筐体内部にこもってしまい、LED温度の上昇を招きます。これにより、同じ消費電力なのに「暗いLED照明」となったり、長寿命をうたってるはずなのに早く故障したりという問題を引き起こしてしまいます。

LED照明を冷やすには?

LED照明の温度上昇を抑制するには、十分な放熱性能をもつ筐体を設計する必要があります。筐体の放熱性能を向上させるには、おもに「使用する物質の選定」と、「筐体内部および放熱部構造の決定」が適切でなければなりません。このなかで、本実験では、「使用する物質の選定」が、熱の伝わり易さ(難さ)に対してどの様な影響を及ぼすのかということを実感してみましょう。

準備するもの

図 色々な素材、太さの金属棒(長さは全て200mm)

本実験では、様々な素材、太さの金属棒を使用して、素材や太さなどによってどの様に熱の伝わり方が異なるのかということを体感します。ここでは、銅、アルミ、真鍮に加えて、「ヒートパイプ」と呼ばれる、非常に熱の伝わりが良い材料も使用したいと思います。なお、金属棒はホームセンターなどで入手可能です。ヒートパイプは、電子パーツ屋さんなどで販売されています。最近では、Webから購入できるものもあります。実験で使用した棒は以下の通りです。

  • 銅(直径 8 mm)
  • アルミ(直径 8, 6, 4 mm)
  • アルミパイプ(外径 8 mm, 厚さ 1 mm)
  • 真鍮(直径 8 mm)
  • ヒートパイプ(直径 8 mm)

  (いずれも、長さは200 mm)


実験のやり方

図 実験中の画像(やけどに注意

実験としては、沸騰ポットからお湯をコップに注ぎ、そこに金属棒の下部をつけ、上部を手で持ち、上部に温かさが伝わってくるまでの時間をストップウォッチで計測します(右図)。なお、熱いお湯を使用しますので、くれぐれもやけどしない様に気を付けて下さい。

実験結果

温かくなるのにかかった時間を測定した結果を下の表にまとめます。

表を見ると、次のことに気付きます。

表 温かくなるのにかかった時間の測定結果
使用した棒 温かくなるのにかかった時間 [s]
銅(Φ8) 52
アルミ(Φ8) 52.62
アルミ(Φ6) 41.34
アルミ(Φ4) 35.78
アルミパイプ(Φ8, t=1) 30.71
真鍮(Φ8)  105.84
ヒートパイプ(Φ8) 1.31

(個人差があるので、同じ人が測定するのが良いと思います)

温かくなるのにかかった時間を測定した結果を右の表にまとめます。

表を見ると、次のことに気付きます。

1.素材によって温かくなるのにかかる時間がちがう

熱が伝わるのが早い順に並べると以下の様になります。

 ヒートパイプ >> 銅≒アルミ > 真鍮
(「>>」は、「圧倒的に大きい」ということを表します)

実は、銅はアルミに比べて約2倍熱が伝わり易いことが知られています(熱の伝わり易さの指標である熱伝導率は、アルミに比べて銅は約2倍)。それにもかかわらずほぼ同じ時間がかかったのはなぜでしょう?それは、今回の様に「冷たい状態から温かい状態へと変化する」場合、熱伝導率ではなく、「温度伝導率」が性質を決めるからです。熱伝導率は、銅はアルミの約2倍ですが、温度伝導率は、銅はアルミに対して10 %弱しか大きくないため、今回の様な実験ではあまり差が出なかったというわけです。すなわち、LED照明をつけたり消したりする場合、アルミの筐体と銅の筐体はあまり差が無い、ということを意味しています。ちなみに、ずっとつけっぱなしの場合、筐体の熱の伝わり易さ、すなわち、熱伝導率が高くなるほどLEDの温度は低くなるため、銅の筐体の方がアルミの筐体よりも、LED温度を低くすることができます。したがって、どの様にLED照明が使用されるのかということも、素材選定の上では重要であるということです。

2.同じ素材でも(アルミ)、太さや形状によって、温まり方が変化する

熱が伝わるのが速い順に並べると以下の様になります。

 アルミパイプ(Φ8) > アルミ棒(Φ4) > アルミ棒(Φ6) > アルミ棒(Φ8)

さきほど、素材によって熱の伝わり方が異なるといいましたが、ここでは同じ素材であるにもかかわらず、熱の伝わり方がことなるということがわかります。すなわち、筐体を設計する上では、素材の選定だけでなく、形状を適切に設計するのが非常に重要であるということがわかります。結果より、熱容量が小さい(=断面積が小さい)順に速く温度が変化したことがわかります。なお、この実験についても、ずっとLEDをつけっぱなしの状況を想定した場合、LED温度が低くなるのは以下の順番となります。

 アルミ棒(Φ8) > アルミ棒(Φ6) > アルミ棒(Φ4) > アルミパイプ(Φ8)

すなわち、今回の実験と正反対の順番となります。これは、ずっとつけっぱなしの場合、熱が伝わる経路の断面積が大きいほど、LEDの温度が低下するためです。ここでもやはり、LED照明の使い方によって、最適な形状が変化するのだということがわかります。

3.ヒートパイプは圧倒的に速く熱が伝わる

項目1でも述べましたが、ヒートパイプは圧倒的に熱をよく伝える材料です。この様な性質から、今日、ノートパソコンなど、非常に狭い空間で効率よく熱を伝えなければならない場合や、高性能コンピューターの様に非常に大量の熱が放出される場合などにおいて、ヒートパイプは活躍しています。


この様に、十分な放熱性能をもつ筐体を設計するためには、そのデバイスがどの様に使用されるのかということをよく考えたうえで、適切な素材を選定し、最適な筐体形状を決定するというプロセスが、非常に重要であるということがお分かりいただけたのではないかと思います。皆さんの身の回りにある様々な電子デバイスは、この様にして設計され、今日も皆さんの生活を支えているというわけです。

 

補足:熱の可視化 
―サーモグラフィーによる観察―

アルミパイプ、真鍮棒、ヒートパイプについて、熱の伝わり方をサーモグラフィーで観察すると、下図のようになります。

(i) 開始 5 秒
(ii) 開始 15 秒
(iii) 開始 45 秒

図 サーモグラフィーによる観察結果(左から、アルミパイプ、真鍮、ヒートパイプ)

この図から、ヒートパイプは非常に熱が速く伝わるということに加えて、十分時間が経過したとき(開始 45秒)、下の部分と上の部分の温度差もアルミパイプに比べて非常に小さいということがわかります。すなわち、ヒートパイプは、LED照明をつけたり消したりする場合の様に、迅速な温度変化が求められる用途に適しているだけでなく、LED照明をつけっぱなしにするような、LEDから発生した熱を速やかに環境へ放出したい場合にも有効であるということがわかります。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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