群馬地域の繊維産業において、富岡製糸場が世界遺産登録されたこともあり、「絹」は欠くことができません。古代から人類はこの魅力的な繊維の力(審美性)を、地位や身分を表すことにまで利用しました。精緻なカイコの糸作りについては、未だ人類は解明することが出来ていません。群馬大学理工学部環境創生理工学科の河原研究室では、何故、セリシンをカイコは必要としているのかという点に注目し、セリシンの相互作用によるフィブロインの結晶多形の制御を調べており、少しずつ論文発表を開始しております。
最近は、必ずしも望まない方向に時代が進んでしまう状況にあり、多くのストレスを人々は受けるようになっています。ここでは、カイコがいかにストレスに負けず健気に糸を吐き続けるのかを紹介することで、日頃からベクトルを持った教育・研究活動を行う励みになればと存じます。糸を吐き始めた直後のカイコを低温の環境に曝し、数日間の低温ストレスを加えます。この様なストレスを受けても、室温に戻しますとカイコは糸作りを体力の続く限り行います。当然、代謝に異常が生じるため(繭糸中のカリウムが多くなる)、吐糸速度が乱れて節のある糸になり、結局、カイコは繭を完成させることが出来ず死んでしまいます。しかしながら、遺作となった繭糸の構造をX線回折で調べますと、結晶構造・配向のいずれも健常な通常のカイコの繭糸の繊維図形と完全に一致します(X線回折図形参照)。死に至る苦しい中でも、結晶多形の選択性や高次構造が維持されていて、本質的な繊維構造形成に手を抜かないカイコは大変立派であると驚かされました。どんな状況下であっても、「やるべきことはきちんと成し遂げるべきである」と、カイコに教わった気がします。この様なカイコの行動を見ていますと、かつての桐生人が高等教育機関の必要性を信じ、民間主導で群馬大学理工学部の前身である桐生高等染織学校の設立を勝ち取ったことを誇りに感じます。河原研究室では、未だに謎に満ちている精緻なカイコの糸作りの解明に取り組んでおります。その中で、学生さんが自然に興味を持てるよう、「体験する科学」の実践に心がけております。
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