大学の研究室や学生団体が製作した小型の人工衛星は、衛星がとらえた画像などの観測データを地上に送ったり、地上からの命令を受け取ったりといったやり取りに、アマチュア無線の電波(周波数帯)を使っています。アマチュア無線の電波を中継し、遠距離通信を可能にする衛星もあります。このような小型衛星の電波は、市販のアマチュア無線用の無線機で受信可能ですが、いくつかハードルがあります。
これらの問題のため、小型衛星と電波のやりとりをする設備は数百万円規模になります。受信して音を聞くだけなら数万円程度の小型トランシーバでも可能ですが、ドップラーシフトへの対応ができないため、情報を受け取ることができません。しかし、SDRと呼ばれる技術の普及により、受信専用の安価(数千円)な装置で、ドップラーシフトに対応した受信ができるようになりました。また、受信専用装置ならアマチュア無線の免許は必要ありません。
Software Defined Radioの略で、日本語ではソフトウエア無線と呼ばれています。従来の無線機では、ハードウエア(電子回路)によって受信した電波から情報を取り出す処理をしていましたが、それをパソコンのソフトウエアで行うことにより、安価な無線機で従来の高価な無線機と同じことができるようになりました。また、ハードウエア処理では機能の変更ができませんが、ソフトウエア処理では様々な機能を柔軟に実現することができます。
一般的には、大きなアンテナ、アンテナを回転させて衛星の方向に向ける装置、高性能な増幅器、感度の良い受信機が必要です。しかし、これらはどれも高価で、さらに安価なSDR受信機の感度は悪いです。受信機と増幅器を安価にすませ、アンテナは手持ちで角度を変えて衛星に向けるとすると、工夫できるのはアンテナです。アマチュア無線では、八木アンテナやループアンテナなど様々なタイプの自作アンテナが提案されていて、それらを自分で工夫し、試行錯誤することにより、無限の可能性がひろがっています。
救急車が近づくときに音が高く聞こえ、遠ざかるときに低く聞こえるドップラー効果と呼ばれる現象が、人工衛星の電波でも起こります。人工衛星が高速で近づいてくるときには電波の周波数が高めにずれ、遠ざかるときには低めにずれます。この周波数の「ずれ」=「シフト」をドップラーシフトと呼んでいます。このような電波を受信するためには、衛星の位置や速度からシフト量を計算し、無線機の周波数を細かく調整する必要があります。これは従来20万円以上するような高価な無線機とPCを連結することで可能な操作でしたが、SDRの出現により、ノートパソコンと2000円程度の受信機で同じことができるようになりました。
上記の他に、ノートパソコンと工具が必要です。
ホームページや書籍を参考に、アンテナを製作します。アマチュア無線電波の周波数帯は144MHz帯と430MHz帯の2つがあります。電波の波長(1周期の長さ)がちがうので、受信に最適なアンテナの長さも異なります。できれば144MHz帯用と430MHz帯用の2種類または両対応型をつくりましょう。5mのSMAオス-オス同軸ケーブルを真ん中で2つに切り、2.5m x 2本にすれば、アンテナ2セット分になります。
アンテナケーブルのSMAオス端子を増幅器の「RFin」SMAメス端子に接続します。 MCX-SMA変換ケーブルのSMAオス端子を増幅器の「RFout」 SMAメス端子に、MCXオス端子を受信機に接続します。増幅器には規格電圧に合った電源を単3電池ボックスなどで用意し、増幅器のVCC端子に電源の+、GND端子に-をクリップやはんだ付けで接続します。最後に、USB受信機をノートパソコンのUSB端子に接続します。
「SDRSharp 使い方」で検索すると、日本語の解説サイトがいくつか見つかります。ここでは最小限の説明のみ行います。
まず、展開したsdsharp-x86フォルダの中のinstall-rtlsdr.batをダブルクリックで実行し、インストール処理を行います。次にUSB受信機をパソコンに接続した状態で、 sdsharp-x86フォルダの中のzadig.exeを実行し、USB受信機のドライバ(制御ソフトウエア)をインストールします。インストーラのウィンドウで「Option」メニューから「List All Devices」を選択します。メニュー下のUSB機器選択メニューから「Bulk-In,Interface(Interface 0)」を選択し、「Install Driver」ボタンをクリックし、ドライバインストールを行います。
gpredictとSDRsharpを連携させるGpredictConnectorを動作させるため、sdsharp-x86フォルダの中のPluginsファイルをワードパッドで開き、以下のテキストを</sharpPlugins>の前に貼り付けてください。
<add key="GpredictConnector" value="SDRSharp.GpredictConnector.GpredictConnectorPlugin,SDRSharp.GpredictConnector" />
gpredictフォルダの中のgpredictをダブルクリックで起動します。自分のいる位置を設定するため、「Edit」メニュー内の「Preference」を選択します。左にあるGeneralをクリックで選択し、さらに上のタブからGround Stationsを選択します。左下のAdd Newボタンを押して、入力画面を開き、Name(場所名)に適当な名称を入力します。Locationで近くの施設名を選ぶか、Latitude, Longitudeに直接緯度経度を入力してください。入力後OKボタンをクリックし、Groud Stations一覧表中の入力した場所にDefaultのチェックを入れてください。
「Edit」メニューの「Update TLE data from network」と「Update transponder data」も実行し、衛星の位置と周波数のデータを最新にしてください。
sdsharp-x86フォルダの中の「SDRSharp」をダブルクリックすると、SDRSharpが起動します。ショートカットをデスクトップに置いておくと使いやすくなります。SDRSharpウィンドウの左上、「Source」のプルダウンメニューで受信機種「RTL-SDR(USB)」を選択します。その下のRadio欄を開き、並んでいる丸いボタンから「WFM」をクリックして選択します。左上の三角形の受信開始ボタンを押すとボタンの形が四角形に変わり、受信情報の表示が始まります。この時点で、ザーザー音が鳴り表示が出てくるはずです。最上部の周波数表示で、数字の上側をクリックすると数字が増え、下側をクリックすると数字が減ります。これをFM放送の周波数にあ合わせてみてください。うまく受信できていれば、周波数強度分布表示欄内のFM放送の周波数の位置に受信強度の山ができます。そこをマウスでクリックし、赤い線を山の中心に合わせると、ラジオの音が聞こえるはずです。また、増幅器の電源を入れたり切ったりして、ラジオの受信強度の変化を見てみてください。
N2YO.com(https://www.n2yo.com/)などの衛星追跡ホームページで、近くを通る衛星を調べましょう。N2YOでは、まずアカウントを作成し、自分のいる場所を登録する必要があります。登録が終わったら、「Satellites on orbit」メニューの中の「Amateur radio sat passes」を選択しましょう。
6時間後までの近くを通るアマチュア無線電波を使っている衛星一覧が表示されます。受信を試みる衛星を選ぶ基準は次の3つです。
表中El=81°のJAISAT 1をクリックし情報を見ると、2019年7月打ち上げの新しい衛星であることがわかります。古い衛星は故障や耐用年数切れで電波を出していない可能性が高くなります。さらに趣味で衛星電波を受信し、その記録がアップされているブログなどで、最近の受信状況を確認します(例: http://www.dk3wn.info/p/)。このサイト内でJAISAT 1を見つけ、受信状況を見ると、現在電波が受信されているか否かがわかります。
受信する衛星が決まったら、gpredict右上下向き三角形をクリックし、Configureを選択、衛星名を入力し検索します。見つかったらその衛星名を選択した状態で、右向きの矢印ボタンをクリック、OKボタンを押し登録します。登録が終わったら、再度右上の下向き三角形をクリックし、Select satelliteを選択、表示される衛星一覧から受信する衛星名を選択します。
CW Beaconと呼ばれる電波受信の設定を行います。CW Beaconは、モールス符号によって衛星のバッテリー出力や内部温度など、搭載機器の健康状態を地上に送信しています。SDRSharp左側上部「Radio」欄で「CW」モードを選択します。また、左側最下部の「GpredictConnector」欄のenableチェックボックスにチェックを入れ、gpredictからの周波数情報を受け取れるようにします。 Gpredictでは、右上下向き三角形をクリックし、Radio Controlを選択します。gpredictに表示されたRadio Controlウィンドウで、左下の衛星名の下のモード選択で、CW Beaconを選択します。右側下の「Engage」ボタンおよび左側下の「Track」ボタンを押します。Engageで衛星の周波数情報がSDRSharpに伝えられ、Trackでドップラーシフトの計算結果がSDRSharpに反映されます。
N2YOやgpredictの衛星位置表示で、衛星の現在位置を確認し、近づいてきたらアンテナを衛星の方角へ向けます。Elevationに表示される地上との高さ方向の角度も合わせてください。受信に成功すると、SDRSharpの信号強度分布表示の赤い線のところに、細い山が現れます。連続して受信すると、周波数強度履歴表示に線ができます。十分な強度で受信すると、ピーピピピーといったモールス符号の音声が聞こえます。SDRSharp左下「Recording」欄内の「Record」ボタンを押せば、音を録音することができます。録音した音声をモールス符号の解読ソフトウエアにかけると、文字や数字に変換できます。この文字や数字が何を意味しているかは衛星ごとに違っているため、その衛星の情報を公開しているホームページで調べてください。
なかなか良好な受信は難しいかもしれませんが、アンテナを工夫するなど、粘り強く改良を重ねて、受信できたときの喜びは大きいのではないかと思います。また、小高い場所や広場の真ん中など、できるだけ高くて周囲が開けたところで受信をしてみてください。山の上や展望台のような場所が最適です。また、少し条件は悪いですが、マンションのベランダなどでも十分受信できます。
SDRSharpやgpredictソフトウエア、N2YOや受信記録のホームペジはすべて英語で書かれているので、とっつきにくいかもしれませんが、長い文章を読むわけではないので、いくつかの言葉の意味がわかれば、使いこなせると思います。科学技術においていろいろな情報を集めるためには、英語は避けては通れないことを実感していただければと思います。
発展的には、それぞれの衛星が持っているミッション(計測や実験の内容)も調べてみましょう。日本の大学が製作した衛星は、たいていホームページでその詳細が公開されています。海外の衛星についても、英語で記述されているMissionの読解にチャレンジしてみましょう!また、衛星電波の受信を極めれば、画像データなどの受信も可能になります。ネット上に様々な情報がありますので、受信機やアンテナのテコ入れなど、底なし沼のような世界にハマってみましょう!
コンピュータや画像センサーなどの要素技術の進歩により、小型で高性能な人工衛星が大学や民間企業で製作されるようになっています。また人工知能などの情報技術と組み合わせ、宇宙から送られてくる膨大なデータが、地球環境や経済活動の計測に利用されています。衛星技術が急速に進歩し、身近になることで、様々なアイディアが実現できる状況になりつつあります。宇宙に漠然とした魅力を感じる人は多いと思いますが、技術的にはとても熱い世界で、衛星製作のために青春を棒に振りつつある大学生が今日も床で寝ているかもしれません。
価格の安いUSB受信機は、受信感度が悪いということ以外に、受信周波数がズレているという欠点があります。図は435.325MHzの電波に対し、 435.325MHzに受信周波数を合わせていますが、赤い線と周波数分布の山がズレています。この状態では、電波が受信できても音が聞こえません。これには以下の手順で対処してください。
準備するもの→(1)SDR受信機の3番目(https://www.amazon.co.jp/dp/B00TB23FHS/)は、受信周波数ズレを小さくするよう、部品が交換されています。
また、Airspy miniなど少し価格の高いUSB受信機なら受信周波数ズレはほとんどありません:https://www.marutsu.co.jp/pc/i/1524991/
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