みなさんは、コンクリートにひび割れが生じていて、「大丈夫かな?」と思ったことはあるでしょうか。コンクリートは圧縮に強いが引張にはそれほど強くないため、ひび割れが生じます。基本的には、コンクリートの中には鉄筋が存在するため、ひび割れ幅が小さいのであれば大きな問題ではありません。しかし、ひび割れの周囲に白い析出物が生じる場合があり、コンクリートにとってはほとんど無害ではあるものの、外観上の問題となりクレームの代表的な例にもなっています。これを白華(エフロレッセンス)といいます。
白華の主な成分は炭酸カルシウムです。コンクリート(セメント硬化体)内部の水酸化カルシウムが、ひび割れの中に侵入してきた水に溶け出し、このひび割れをつたってコンクリート表面に移動し、二酸化炭素(空気中の炭酸ガス)と反応することで炭酸カルシウムが生成されます。
この白華をコントロールし、コンクリート(モルタル)表面にデザインを施してみます。今回は、高強度コンクリートを用います。コンクリートはセメントと水の水和反応により硬化して強度を発現する材料ですが、前述の通り圧縮に強い材料であり、セメントの使用量など材料の配合を適切に設定(より少ない水でセメントと配合する)することで、より高い強度のコンクリートを得ることができます。高強度コンクリートを使うことで、例えば高層ビルの建物の柱をよりスレンダーにするなど、見通しの良いデザイン性・機能性に優れたコンクリート建築物を得ることができます。
※金沢大学4年生大丸彩希氏の作成
高強度コンクリートの明度変化をコントロールするため、コンクリート表面が二酸化炭素と接触しないようにテープを使って保護します。テープにより白華による明度変化に差が出れば、表面に白華によるモノトーンのデザインを施すことができます。これをやってみましょう。
※今回は試験体が小さいため、モルタル(砂利を使用していない)とします。
セメント、水、砂を混ぜたものをセメントモルタル、これに砂利(粒径が5mm以上の石)を混ぜたものをコンクリートといいます。
セメントCと砂Sを入れて均一になるようにかき混ぜます。
水を入れて、流動性が出るまで6分ほど練り混ぜます。
繊維を入れて、均一に分散するように2分ほど練り混ぜます。
プラカップを使って、型枠に打ち込みます。振動は与えなくても型枠の隅々まで行きわたるような流動性の高いモルタルになりました。
その他
板状のもの、円柱状のものが出来上がるように、いくつかの種類の型枠に流し込みました。
打込みから2日間、表面をラップで覆い、空気との接触を断ちます。2日後に硬化していることが確認できたら、脱型(型枠から外す)します。硬化した試験体の表面が炭酸ガスと触れないように、脱型直後の表面が湿った状態のまま塩化ビニル製のテープを貼りました。
今回は、金沢市の兼六園にある徽軫灯籠(ことじとうろう)をデザインするため、テープを灯篭の形に切り抜き、試験体に貼り付けました。
脱型直後にテープを貼った状態
テープを貼った後、硬化体内部のセメントと水の反応を促進するため、90度の温水で2日間の養生を行います。
温水養生後、水が冷めるまで待って取り出し、テープをはがした後で試験体が乾くまで待ちます。その後、表面の明度の違いを観察してみます。
長方形のテープを複数箇所に貼った試験体では、テープを貼っていない場所が白く色づいていることが分かります。一方、テープを貼った場所は、脱型直後の暗い色からあまり明度の変化が起きていないことが分かります。
長方形のテープを貼った試験体
また、灯篭の形にデザインできているかどうか確認すると、灯篭部分をテープで貼付した試験体ではくっきりと灯篭の形が確認できます。一方、灯篭以外の部分をテープ貼付した試験体は、円柱の表面に貼る際にしわが寄ってしまったため、しっかりと貼付できず、明瞭でないデザインとなってしまいました。
今回は貼り付けたテープを一気にはがしてみましたが、テープをはがすタイミングに差をつけることで、明度をコントロールできるようです。また、今回はコンクリートの白華について簡単に紹介しました。コンクリートや白華についてもっと踏み込んで学んでみたいと思ったら、以下の文献で勉強できます。
掲載大学 学部 |
金沢大学 理工学域 | 金沢大学 理工学域のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |